Credit: PNAS
ノースウェスタン大学の研究チームは、特定の用途に最適なナノ粒子を迅速に探し出す材料開発ツールを開発した(Kluender et al., PNAS online Dec. 17, 2018)。このツールはナノ粒子のコンビナトリアルライブラリ(メガライブラリ)を利用する。コンビナトリアルライブラリは、表面上の特定の部位に固定された系統的に変化する構造の集合体である。
このメガライブラリは、数十万個のピラミッド型チップを使用してアレイ(データ要素のセット)に依存するPPL (Polymer Pen Lithography)技術で作成され、それぞれ異なる金属化合物が表面上に置かれる。いったん加熱されると、これらのドットは、固定された組成およびサイズで金属ナノ粒子に還元される。
微細化することによって、①数百万種類の材料を平方センチメートルの領域に詰め込んだメガライブラリを作成することが可能になり、②100nm以下のナノスケールの粒子を作成できるため、高スループット材料発見につながる。
研究チームは、単層カーボンナノチューブを合成するための新しい触媒としてAu3Cuをメガライブラリとその場ラマン分光法に基づくスクリーニング技術を利用した。
カーボンナノチューブは、多くのプラスチック材料のためのエネルギー貯蔵、ドラッグデリバリに使用される、軽く、柔軟で、強靭な分子である。スクリーニングプロセスは1週間未満で済み、従来のスクリーニング方法よりも数千倍も速い。従来の方法よりもはるかに速く最高性能のナノチューブを得る最適組成物を見つけることに成功した。もともとコンビナトリアル手法は材料合成のパラメータの組み合わせを、自動化して絞り込んでいくロボット的な手法であったが、ここではそれをメガスケールに拡大し、判定をAI化したことが特徴である。
Credit: PNAS
材料科学では機能性新材料の探索が鍵となるが、触媒、光収穫構造、生物診断、医薬品、電子デバイスなど、特定の用途に最適な材料を見つけ出すことは、効率が悪く困難な作業である。光学、構造材料、電気、機械、化学などの材料特性が固定された場合であっても、組成、結晶構造の違いやナノスケールでは性質が異なるため経験的な手法に頼らざるを得なかった。メガライブラリに物性測定装置をリンクして結果をAIが判断して最適組成を見つけ出すことがこれから材料科学で一般化するものと期待される。
これまで多くの研究者がアカデミアはAIを研究開発の場で、それが独創的な発見をもたらすとは思いもしなかった。しかし膨大なデータから意味のある事象を見つけ出すAIは素粒子物理で使われている。AI利用で恩恵を受けるのは素粒子物理にとどまらない。物質科学から薬学、医療分野まで限りなく広がろうとしている。