5Gのインパクトへの警鐘

03.02.2019

Photo: digitaltrends.com

 

5Gについての大多数の人々の理解は、遅延が少ない高速情報通信速度で可能になる外出先の高精度動画コンテンツの再生やIoTによる産業構造の変革など、明るい未来テクノロジーだろう。しかし実際には指向性が高い周波数帯の使用で基地局整備は一変する。電波の到達距離が短いため都市部では、すべての通りに沿って5Gのセルタワーが乱立することになる。ここまではよく知られていることだが、長距離通信に、何千もの新しい通信衛星から地球にミリメートル波が照射されることは意外と知られていない。

 

すでに5Gは2019年度商用利用開始を目指しているが、FCCは2018年3月にSpace Xに4,425個の衛星を地球の低軌道に打ち上げることを承認した。Space X以外の民間会社が打ち上げる衛星をいれると、低軌道と高軌道に投入される衛星の数は20,000個にのぼる。

 

5Gのミリ波帯域は未踏の技術

5Gのミリ波帯域は携帯電話との通信にフェーズドアレイアンテナを使用するが、軌道上の衛星でも地上5Gシステムで使用されるのと同じフェイズドアレイアンテナが使用される。これは地球上にある特定の5G機器に強く集束したマイクロ波放射のビームを送るためである。

 

4Gまでのセルラー通信では、指向性の低い大きなアンテナを使用して一面の放射を全方向に送信していた。より低い周波数とマイクロ波の広い分布で、個々の高い塔が管理する小区画(セル)で使用可能な携帯機器の数は制限される。

一方5Gに使用されるミリ波は、フェーズドアレイアンテナ(注1)を使用してRFビームを送受信する。

 

(注1)イージス艦で使われるフェイズドアレイアンテナは、ビーム状にエネルギー線を放射する連携して動作する何百もの小さなアンテナのクラスター(例えば4x4アレイ)で構成される。こうして出力されたマイクロ波のビームは壁や人体を通過するのに十分に強くなり、建物の内部や交通機関に乗ったままでの通信が可能になる。

 

5G通信の問題は人々が移動するにつれて、フェーズドアレイアンテナがスマートフォンにビームを合わせ込む、すなわち狙い撃ちにしなくてはならないことである。そのため5Gフェーズドアレイアンテナの有効放射電力は、4G電話機の10倍強力になる。このようなビームを狙い撃ちする送受信アンテナが4Gと5Gの大きく異なる点である(下図)。スマートフォンだけでなくIoTではさらに、5Gビームが、コンピュータ機器、家電製品、自動車などいたるところから送受信が日常化する。

 

 

Credit: mitsubishielectric.com

 

家庭やオフィスのWi-Fiハブなどの固定機器では、5G電話からの信号の15倍、または4G電話の150倍の強度のマイクロ波ビームが使用される。4Gですら長期通話が癌発生確率の上昇につながることをWHOが警告しているのだから、個人の持つスマートフォンと溢れかえるIoT機器で、人体への影響はこれまでとは別次元となる。下図に示される

 

地上ベースの5G運用

5G導入はまだ先だと考えるのは誤りである。地上基地局ベースの5Gシステムは、すでに数十の主要都市で導入されている。計画は2019年以降の実施が他の何百もの都市が承認し、実行に移される。現在の5Gに関するFCC規制では、健康上の懸念に基づいて都市が異議を唱えることができない。そのため米国の一部上院議員は5Gの健康上の問題を見直し規制をかけることを提案している。しかし電気通信会社の利益と相反することになる規制が立法化される可能性は低い。

 

衛星ベースの5G運用

初の5Gテスト衛星2基は2018年2月にSpace Xによって打ち上げられた。2019年には何百もの衛星が打ち上げられると予想されている。問題はSpace Xだけでなく他に民間企業が打ち上げを代行する分もふくめると、今後2年間で20,000の衛星が軌道に乗ることになる。

 

2017年9月現在、1,738個の運用衛星が地球を周回しているので、5G衛星の打ち上げで衛星の数が現在の数の11倍になる。これだけ数が多くなると衛星打ち上げに使用されるロケットからの環境災害が無視できない。固体ロケット燃料は地球のオゾン層を破壊し大気中のオゾン密度は4%低下する。液体燃料を使用するロケットは高高度で大量のカーボン煤煙を大気中に放出する。

 

地球規模の環境汚染

また5G衛星は、おそらく5年という比較的短い寿命のため、今後恒常的に、ロケットの打ち上げが行われ、環境汚染が続くことになる。結局地球上の人間全てがミリ波非電離放射線を1日24時間照射されるが、健康への影響はまったくわからない。5Gによる健康被害の調査は、地上および宇宙での5Gシステム整備より遅れる。そのとき健康被害が立証されたとしても遅すぎる。何百万人もの人々が頭痛、脱力感、脳の霧、学習能力と推論能力の低下、胸痛、その他の電磁気過敏症に悩むことになっても地球上に5G電波から隠れられる場所はない。

 

安全性アセスメントより優先される民間事業

本来、5Gの健康リスクを調べる間、5Gは保留にすべきなのだが、莫大な利益を生む5G普及で通信事業会社、基地局と衛星メーカー、そして全てのIoT機器事業者は結束して5G導入を目指している。米国がファーウエイを締め出す思惑は情報保護や安全保障というよりIoTの世界基準で優位性を確保するためである。ファーウエイ締め出しで日本の5Gインフラに影響が出るとしても、計画の進展を止めるほどではない。5G基地局と衛星事業に規制がないことの危険性を認識しなければ手遅れになる。

 

 

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