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産業革命以降の人間活動が温室効果のような地球表面の温暖化に貢献したとして、気候変動に対処するために、国や地域が寄与した割合に応じて、排出ガス削減目標が定められ、炭素税が課せられる。しかしコロラド州立大学の研究チームによれば、気候変動は表面温度のわずかな変化では到底表現できない複雑な複合効果で、国ごとに公平に規制量を決めるには、累積放射強制力評価が必要だとしている(Murphy & Ravishankar, PNAS online Dec. 17, 2018)。
研究チームによれば、1900年以来9つの異なる世界の地域が気候変動に貢献した度合いが大きく異なる(下図)。このことは気候変動の対策を責任に応じて分配するには、放射強制力評価の精度を上げなければ不公平になることを意味している。
Credit: PNAS
累積的放射強制力
評価の際に研究チームは現在の単なる「スナップショット」ではなく、過去1世紀に渡って気候要因の変動と流れを統合する「累積的放射強制力」と呼ぶ指標を用いるべきだとしている。「放射強制力」(注1)は、地球が保持する太陽のエネルギーを測定する指標で、地球温暖化は宇宙に逃げるべきエネルギーが地球に保持される放射強制力の結果なのである。
(注1)何らかの要因(例えばCO2濃度の変化、エアロゾル濃度の変化、雲分布の変化等)により地球気候系に変化が起 こったときに、その要因が引き起こす放射エネルギーの収支(放射収支)の変化量(Wm-2)。
研究チームは、粒子状物質による大気汚染、化石燃料の燃焼、野火、および何10年にもわたって大気中に汚染物質や粉塵を噴出させた人間活動の寄与を重要視する。エアロゾルは大気中で短命であるため温暖化には寄与しないとされているが、日光および雲との相互作用のために冷却効果は無視できない。CO2および他の温室効果ガスが大気中に残っており、長年にわたって温暖化に貢献し続ける一方、エアロゾルは、その冷却効果によって正味の球温暖化に負の効果を持つ。
CO2排出量だけでは決まらない温暖化
研究チームの分析では、正負の項目の複合効果となる放射強制力は複雑で排気ガスと温暖化の関係も単純ではない。例えば、1910年から2017年の間に、中国、ヨーロッパ、北アメリカの温暖化にほとんど寄与しない期間があった。これらの期間、排気ガス規制はほとんど実施されず、GDPの急速な成長で排気ガスが大気中に放出されたのにも関わらず、温暖化が観測されなかった。この研究はさらに、2018年から2100年までのCO2(および他の温室効果ガス)排出による放射強制力への各地域の貢献は、先の1世紀の全温暖化よりも大きい。
公平にCO2排出量に比例した責務を分担するならば、CO2放出量の大半を占める北米と中国は排出規制の規制も排出量に応じた貢献をすべきである。特に今日まで、中国はほとんど貢献していないし、現在、最大のCO2貢献者である北米は、2100年の時点でも不動のトップにあると予測される。
エアロゾルの冷却効果
エアロゾルの短期冷却は冷却に寄与する一方で健康被害ももたらす。インドでは年間約100万人が大気中の硫酸塩エアロゾル、ホコリやススのような微粒子の大気汚染の犠牲となっている(自然死以外の死因となっている)。2012年のインドの粒子状物質による早期死亡は約110万人と推定され、約60%が人為的汚染物質によるものであった。
インドはクリーンエア政策を実施している。これによってエアロゾル放出が減れば大気汚染による早期死亡が減る一方で、エアロゾルが気候変動を相殺する役割を果たせなくなるという「諸刃の刃」の側面がある。つまり将来の気候シナリオには、これまでのすべての温暖化寄与とその寄与の効果が考慮されなければならない。
先を急ぐ無駄な対策はやめるべき
気候だけでなく、人間の健康に直接関わるガス排出削減は、実行可能な選択肢だが、長期的スケールで放射強制力への各国の寄与を評価して、将来の分担を決めなければ不公平になる。またその際にはエアロゾルを含めた正負の項目を取り込む必要がある。意味のない規模で微粒子を撒き散らすジオエンジニアリングのまねごとなどの安易に対策を講じることは避けるべきである。