Credit: ESA
火星上のメタンガスの存在は、生命の存在の証拠であると長い間考えられてきた。2018年12月12日、ESAの最新の火星探査ミッションのトレース分析機器では、火星の大気中に痕跡量のメタンが確認できなかったことが波紋を呼んでいる。
2016年に火星周辺の軌道に到着したESA火星探査ミッションの高感度分析機器(NOMAD分光計)は、非常に低濃度のメタンを検出するように設計された2系統の分光システムからなる。測定の結果、検出限界50ppt(pptはppbの千分の一)となる超高感度計測でも、火星の表面にメタン(注1)が検出されないことが示された。
(注1) 2003年、NASAのゴダード宇宙センターの研究チームは、火星の大気中の微量のメタンを初めて検出し、1年後にESAの火星探査ミッション(Mars Express)によって確認された。 その後2014年12月、キュリオシティローバーはゲイルクレーターで10倍強いメタンを検出し、火星には季節的なメタンサイクルがあることが明らかになった(下図)。
Credit: JPL-Caltech-NASA
季節に依存した火星にメタンが存在することは2003年のキュリオシティローバーの測定で明らかになったが、今回の最新の高感度測定は火星大気中のメタンの存在を打ち消すことになった。太陽風の塵から毎年火星の大気中には何百トンもの炭素が流れ込むとされ、この炭素が日射と反応してメタンを形成すると考えられると矛盾するようだが、過去に発見されたメタンは地下起源でしかも循環しているなら別の解釈も成り立つ。メタンが火星外から来た炭素起源ではないなら、大気中では痕跡量のメタンが見つからなくても不思議ではない。
Credit: NASA/JPL-Caltech/SAM-GSFC/Univ. of Michigan
火星のメタンが検出された過去の結果が誤っていた可能性は低いので、両方の結果を両立する、地下起源のメタンが大気に放出された後に分解されるメカニズムの可能性が高くなった。いずれにしても、これらからのNASAとESAの火星ミッションで火星のメタンが消えたメカニズムが解明されるものと期待されている。