NASAが月面探査で中国に歩み寄る理由

20.01.2019

Photo: www.technology.org

 

 NASAは中国への技術移転防止を目的とした法的枠組みの中で、中国の宇宙機関と月の探査について情報共有をはかり協力関係にあることを認めた。NASAはアメリカの衛星からの情報を中国と共有していること、および中国が探査機が着陸した地点の情報を伝えた。貿易冷戦状態にある両国の意外な協力関係の背景を考察する。

 

中国の探査機着陸を監視したかったNASA

 もともと2020年に再び月に有人宇宙船を送り込み、その後月面基地の建設を目指していたNASAは、月偵察オービター(LRO)(下のイメージ)が1月3日に中国の着陸船の歴史的な着陸を巻き上げる粉塵による着陸の観察を希望していた。そのためNASAはLROの予定軌道を中国に提供したが、LROが最適軌道に移行できず、観察は実行できなかった。 

 

 

Credit: NASA

 

貿易冷戦でも宇宙開発協力に積極的な米国

 LROは1月31日に中国の探査機の着陸地点を通過し、写真を撮影する。2011年以来、米国議会は、NASAが、連邦政府の資金で、二国間の政策、プログラム、命令、または契約を開発、設計、計画、公布、実施または実行することを禁じてきた。

 

 例外は可能であるが、NASAは議会とFBIに対し、「国家安全保障または経済安全保障上の意味を伴う技術、データ、またはその他の情報が中国または中国の所有企業に移転する危険性はない」ことを証明しなければならない。

 

 NASAは中国との協力は透明性があり、相互的であり、相互に有益であると述べたが、米国が貿易冷戦の相手国と宇宙開発で協力関係を望む背景には、中国の月面探査を放置すれば、資源開発を野放しにすることへの危機感がある。月資源としては核融合D-D反応燃料となるヘリウム3やアルミニウム、チタン、鉄などの金属資源がある。また火星など惑星を目指す長期宇宙飛行の基地として、あるいはトランプ政権が設立した宇宙軍の基地の建設には、岩石から酸素、水素を取り出して水を製造することもできる。

 

中国と月面基地建設を目指す欧州

 中国の月面探査がそのための資源探査が目的なら、調査協力という名目で情報共有することは、抑止力にもなり得る。資源開発を国際的な枠組みで透明性を持たせようとするならば、早期に協力関係を築くことは国益に沿ったものなのである。ただし欧州宇宙局(ESA)も月面基地の有用性を認識しており、すでに中国と協力して月面基地の建設を目指した交渉が2017年に開始されている。

 

 中国の月面探査機の着陸とミッション開始の成功で、欧州と中国の協力による月面基地建設の計画が動き出す前に、米国も協力関係を築き情報共有を目指すことは避けられない状況にあった。貿易冷戦と技術情報流出政策と矛盾する動きではなかったのである。トランプ大統領が創設した宇宙軍は、エイリアンから地球を守るためではない。

 

 

 すでに米国、中国、ロシアで様々な軌道兵器の開発が活発化しており、未来の戦術兵器として軌道兵器が現実化していることに対応した流れなのである。宇宙開発が軍事的な意味を持つようになった。月面基地を惑星旅行や資源開発の拠点として考えるだけでは済まなくなった、ということを頭に置かなくてはならないだろう。いずれにしても中国が月面探査と基地建設の国際協力を認めるかどうかで、その真意が明確になる。資源開発の膨大な初期費用を背負って独占を狙うのか、共同開発で負担を減らして共有化するのか、今後の動向が注目される。