リスボン条約第50条発動を巡る英国の苦悩

17.01.2019

Photo: businessdaily

 

 リスボン条約は欧州連合の基本条約を修正する条約で、第50条はEU加盟国の離脱についての手続きに関する規約である。欧州理事会へ通告した後、離脱する国はEUと脱退協定締結のための交渉を行うことが明記されているため、英国はこれまでこのルールに沿って、交渉を進めてきた。

 

リスボン条約第50条発動は3月29日

 第50条で定められる離脱開始日は、3月29日の予定で、それ以上の延長はないEU参加国としての最終期限だが、火曜日に議会で離脱案が否決されたため、離脱の実施に暗雲が立ち込めている。合意なき離脱を懸念する経済界に対して、フィリップ・ハモンド首相は全保守党盟主ニック・ボレス氏の合意なき離脱の排除と第50条発動の9ヶ月延期する動きを阻止するつもりはないと伝えた。

 

 昨夜の欧州委員会(ブリュッセル)当局はまた、EUが英国の合意なき離脱を回避するために、2020年までの最長1年間、第50条の延長を承認する準備ができているとしている。一方、離脱肯定派は第50条発動すなわち離脱の延期はあり得ないとして強まる延期の可能性に反撥している。

 

 メイ首相は欧州委員会が交渉継続を拒否しているなかで、代替案を作成する時間稼ぎを画策している。また離脱否定派は国民投票を再度実施するための第50条発動延長を目指しており、今後の動向は見通せない。これに対し、メイ首相は、第50条を延長することは望まないと述べたが、離脱法案を議会を通過させるために、時間が必要な場合の発動延期を否定していない。

 

時間切れの可能性が濃厚

 政府部内では、議会で成立させるべき法案が優先されるべきでそのための発動延期は避けられないという考え方が広まっている。しかし発動延長は、他の27カ国すべてのEU加盟国によって承認される必要があり、EU内でも発動延長はやむを得ないとする意見がある。また発動延長で欧州懐疑主義を掲げるイギリスの右翼政党(UKIP)の勢力増大につながる恐れがある。

 

 結局、英国に不利な交渉案でも第50条発動を遅らせたくないメイ政権にとっても、第二の国民投票をめざす離脱否定派にとっても、解決案を見いだせないまま時間切れで、3月29日に合意なき離脱に突入するカウントダウンが始まった。下図に示すように、離脱案が議会で否決された後の選択肢は多いが、どの道をとっても政局の混乱は必至であるどころか、どの道を選択しても対EUの根本的な問題解決は別の話である。