イーロン・マスクの実像

イーロン・マスクの実像

テスラ・モータース社CEOでありスペースX社も率いるイーロン・マスク氏は飛ぶ鳥を落とす勢いでもてはやされている。テスラEVの成功で時価総額がGMを超えたということで話題になっている。だが時価総額で騒がれた会社がどこかにもあったのを覚えている人は多いだろう。

 

イーロン・マスク氏がハイパーループの構想を上のスケッチを持って、華々しく登場した時、私は密かに、「ああこの人は理科系ではないな」、と思っていた。上の図はトンネル内を走る列車の状態ならそのとおりだが、ハイパーループの概念は進行方向(左手)を低圧に、しなければならない。また後方に進行方向と逆の高い圧力差があれば、その分有利だが、この図はいただけない。真空の関係が前後逆、真逆だからである。

 

そう、実は最初のアイデアは現在のように低圧トンネル内を磁気浮上させて、空気抵抗を低くして走るのではなく、先頭車両のターボファンで前方の空気を吸い込んで車体を浮かせて後方に吐き出して進むものだった。この方式では車体を安全にトンネル中央に維持することが難しいので、途中で方針が現在のものに変わった。

 

理系でない彼は実業家としての才覚を発揮していく。2010年にトヨタと結んだ技術提携の話がご破算になり、トヨタは全株を売却した。この件の顛末は自動車専門サイトに詳しく書かれているが、少し補足するとトヨタとの提携でイーロン・マスク氏が欲しかったのはトヨタの量産システムである。結果的に量産型EVのモデル3の組み立て工場をトヨタから、格安で譲り受け量産システムを学ぶことができた。

 

この人はEVは100%クリーンでFCVは馬鹿げている、という。EVがゼロエミッションだというのは例えば、原子力やバイオマスがゼロエミッションだと同じくらい馬鹿げている。なぜなら発電にかかる過程で(再生可能エネルギーに頼らない限り)エミッションと環境汚染は無視できないからだ。

 

もちろん水素を製造する過程でエミッションもあるから、現時点ではどちらにしてもクリーンではない。しかし将来、人工光合成や太陽光水分解で水素が環境保全で備蓄できるエネルギー源になるときには、別の次元の話になる。彼の目論見はそのとき電力は太陽光パネルでまかなわれている、ということだろうが、その可能性は低いとみている。

 

さてトヨタとの提携でRAV4をEV化する共同事業を行ったときに両社の技術文化が異なるために開発が遅くなった顛末は専門サイトに詳しくかかれている。電子制御(AT)に関する基本方針の違いと説明されているが、私自身、ドアに近づかないとハンドルがでtこない車に乗りたくない。また日本のタクシーのようにオートドアで迎えてくれる車もいいらない。どうも車の基本的な装備についてテスラ社は従来の慣習を否定したいらしい。

 

EVではトヨタに、ハイパーループではJRに喧嘩を売ってきたイーロン・マスク。結果がでるのは10年先だが、楽しみである。