テスラ社の誤算と責任

Photo: overdrive.in

 

テスラ社の新型EVは爆発的に予約が殺到した。発売から1週間でで32万5000台の受注を受けた(注1)。日本からの受注には予約金が15万円かかる。性能は価格が普及車の300万円台なので自慢の航続距離は目をつぶりメーカー公表で345kmとなるが、それでも200km台のEVを軽く超えて、日常の足としては不足のないところだろう。

 

(注1)最終的な予約数は40万台とも50万台とも言われるが、正確な受注台数は公表されていない。

 

極端に長い航続距離とスポーツカー並みの運動性能は、PC用のリチウムイオンバッテリー数1000個と自社で生産する強力なモーターのおかげである。将来の自動運転につながるオートパイロットを始めとする先進的な機能とデザインに若い世代は魅了された。

 

細かいことは省くがテスラ社は車産業のアップルに例えられる。CEOのイーロン・マスクによるお披露目はアイフォーンの新型発表会のような熱気に包まれた。自動車メーカーが常識としてきた営業体制や、デイーラー販売をあっさりやめてネット予約によって、販売をするこれもPC業界の例えで言えばデルコンピュータのような通信販売によって、32万台以上のオーダーを1週間で集めた。

 

テスラ社はトヨタとフォードが建設したカリフォルニアの巨大な工場を安価に手に入れた。ここではシーメンスのロボット溶接機が98%以上のアルミボデイを製造している。

 

しかし今回の大量発注はテスラ社にも大きなリスクを投げかけることとなった。そもそもトヨタでさえプリウス販売は年間12万台で、テスラ社が32万台を生産する能力が(現状では)無いことが明らかだからである。商品のバックオーダーを抱えて販売できなければ消費者は苛立ちテスラ社も遅れれば不利になる。2017年から製造が開始されるが生産規模を拡張しなければバックオーダーが履けるのに数年かかる。

 

最も危ぶまれるバッテリー調達はパナソニックの技術で2014年から建設中のギガファクトリーが稼動すれば、年間50万台のキャパを手に入れられるのでここはクリアできる。部品の自社生産率が高いことがしかし命取りになる。トヨタなら部材メーカーに発注かければ下請けは徹夜で作業して部品が届くだろう。

 

しかしテスラ社の自社生産部品比率が高いので部品全体の生産量増大の負荷が大きい。モデル3専用の製造ラインを確保しなければならないが、現在の工場だけでは手狭である。ネット予約によって販売店維持経費や営業マンの雇用費をなくした反面、サービスそのものが問われることも考慮するとデリバリー計画の見直しが不可欠となる。

 

また先に販売したモデルSがセダン、その次にSUVであるモデルXを販売したが、世界中で売れ筋はSUVなので、モデル3を発注した購入希望者が本当に欲しいのはSUVなのかもしれない。

 

大量にキャンセルがでればまた生産計画の見直しに迫られる。まっとうな車の販売を経験したことのないテスラ社は苦境に立たされるだろう。時代の最先端にいることに価値観を見いだす消費者をどこまで待たせることができるかが問われている。新しいテクノロジーやビジネスモデルの普及直前の苦労は、ジレンマと表現される。それは古いスタイルを維持しようとする者とそれを置き換える者たちとの利益相反があるからだ。テスラ社の場合はまさしくテクノロジー置き換えのジレンマを抱えている。

 

 

Updated 11.02.2018

投稿時の記事の内容のを一部を修正しました。