マセラテイの受難

 

 とある初夏の一日、シシリー島のエリーチェの石畳を散策していると、好みの大排気量のずぶとい音とともにマセラテイ2代目ギブリが追い越して行った。

 

 この先は道が細くなり直角に曲がるのはマセラッテイのドライバーとて無理なんじゃないかと思っていたら、あんの定、スタックしていた。

 

 どうみても曲がりきれる感覚ではなかった。ギブリは羊の皮をかぶったオオカミ。4ドアはめったにみないが、2.8lV6ツインターボのはずだが、音からするとオーバー3lでV8っぽい。それならV8DOHCツインターボのシャマルかも...

 

 しかしあれは4ドアはなかったはずなので、などと考えているうちに曲がりきれない角に来た。ドライバーは初老の紳士。落ち着いて切り返しを何度もやる。

 

 あたりは太いエンジン音と排気のいいにおいが立ちこめる。付近の車好きと思われる人たちが出て来て、誘導を繰り返す。

 

 ざっと30分以上の格闘のあとなんとかクリアして去って行った。

しかしあと車はいったいどのモデルだったのか。

 

 少なくとも排気音はマフラーいじっていることは確かだ。羊でないことは確かである。