キューバの中のアメリカ


 1960年代のアメリカ車といえば大別して、いわゆるマッスルカーと呼ばれるV8ー5リッターの大排気量で強大なトルクにものをいわせて、発車時のタイヤ痕跡がくっきりと道路に残るタイプがある。


 他方、フルサイズではあっても、ボンネットを開けるとスカスカで地面が見えるもの。非力なエンジンで絶えず回転数を上げていないと、エンストする。こういうクルマでロッキーに行く時は空気が希薄になるとキャブレターを高地用に調整しないと大変なことになる。


 しかしどちらのクルマであってもアメリカ本土ではみることは稀だが、キューバには60年代のアメリカが厳然としてある。クルマもそうである。


 こうしたクルマは現地にとけ込んで何故かノスタルジックな時代から切り取って来たみたいである。しかし排気量に比例して燃費が悪いのに貧困な国でどうやってガソリンを入れるのか疑問であった。


 キューバはベネズエラの前の政権に君臨していたウゴチャベスと仲良しなのだ。そのためサウジアラビアを抜いて世界1の原油埋蔵国となったベネズエラの豊富な原油を安くわけてもらえた。


 ガソリン価格が安ければ燃費の悪いクルマが走り回り、スラムの黒人たちの足となることは納得できる。


 1960年代のアメリカは産業技術と労働者の質が最高潮といわれるが、いまでも70年を遡り元気に走り回っているのをみると、相当にしっかりつくられたクルマなのだろう。


 オバマ政権はキューバと国交を回復し渡米規制を緩和した。ガラパゴスように古き良き時代のアメリカ文化に慣れ親しんで来たキューバ人達がようやく本家のアメリカに自由に入国できるようになったが、彼らの目に今のアメリカはどう映るのだろうか。


 プリウスやテスラ社のロードスターが行き交う世界に目を見張るだろうか。きっと肩をすくめて母国に帰って行くに違いない。


 1960年代のアメリカはキューバにしか残っていない。