とりあえずビール















 「とりあえずビール」というのは日本の居酒屋でのお約束事だが、アメリカ人も同じだ。店に入ってテーブルに案内されるか、カウンターにすわるやいなや、客か店員のどちらかが絶妙のタイミングで"Beer"という。


 イントネーションが上がり気味なら、店員が、下がり気味なら客の声である。アメリカのビールはドイツや日本のビールに比べて美味しくない、という人が多いがそれは適切な評価ではない、と私は思う。


 まず度数の少なさと炭酸のきき方には爽やかさを覚えるが、これは日差しの強い日中、汗をかいて飲むのにちょうどよい。何故かランチで飲む1杯は全然酔わない。水分補給の役割がある。


 個人的には西部系(Coors、ORION)が好みであるが、東部ではSamuel Adams、中部では売れ筋のBudwiser、Schlitsなどがよく飲まれる。最近ではこれらにLightが加わり競争が激しい。


 Blue Ribbonは値段が安いので余裕のない人たちのパーテイには欠かせない。(Blue Ribbonはカリフォルニアに工場があるが中国企業に買収されたようだ。)Coorsは1970年代には西部7州でしか手に入らなかった。輸送中にトラックが襲われ積み荷のCoorsが強奪されたという。


 確かに炭酸水をのむような爽やかさはアウトドアがぴったりである。日本の居酒屋は気兼ねないがカフェとなると、突然敷居が高くなりビールをオーダーして良いものか悩ましいが、アメリカではBARでの合い言葉は"Beer"だ。


 最近戸惑うのはメニューにSappolo、Asahi、Kirinの御三家が入りどこにいるのかわからなくなることだ。


 友人にビールを奢る借りができた。この男が注文して来たのは"Fat Tire"というものでお祝い事には欠かせないらしい。銘柄の好みは人それぞれだが"Ice cold beer"という看板に心ひかれる。


 何十年もしてから巷では「氷結ビール」が流行りだした。でもあの強烈な日差しの中で木陰で飲むCoors以上のものはないと思っている。