ダイアナと遭遇























 1980年代後半のロンドンでは不思議な体験が簡単にできた。セレブと庶民の間の垣根は低かった。例の黒いロンドンタクシーに乗り、ドライバーと世間話をする。


 Rolling Stonesの話で盛り上がったが、突然、目を輝かせた若いドライバーがいう。ミックジャガーを近くでみたければクラブのギグでみられるのだという。


 あるときKing's Collegeの英国人が大学の近くのTeaRoomに私を誘ってくれて、ちっぽけなテーブルで軽い昼食をとっていた。


 その時、突然店が騒がしくなり、友人が目配せした。一瞬の出来事に何が起こったのか全くわからなかったが、数人が店に入って来てトイレにダッシュしていったようだ。彼がいうには僕はしっかり見たよ、あれは子供(ウイリアム王子)を連れたダイアナだった、と。


 一瞬だけで店は元の和やかな雰囲気に戻り、誰も気にせずそれっきり騒ぎが起こることもなかった。


 一時期ダイアナは子育てに没頭したことがあるということだが、ちょうどその頃だったのだろう。


 ロンドン大学の一部であるKing's Collegeは伝統のある校舎がテームズ側に沿って建てられた屈指の有名校だが、職員や学生は外のTea Roomで軽めの昼食をとる。その日常に溶け込んでいたダイアナとあえて無視することでプライバシーを守ってあげたロンドンっ子たち。


 パパラッチに追われて逃げる必要もなかった80年代のロンドンが懐かしい。