IBMが単原子メモリーを開発

10.03.2017

Credit: IBM Research

 

IBMサンノゼ・アルマデン研究所は1個の原子に1ビットを書き込める単原子メモリの開発に成功した。かつてSTMを開発したIBMは単原子操作技術でも世界をリードしこのほど世界初となる単原子に情報を書き込む手法の開発にこぎつけた(Nature 543, 226 06 Mar. 2017)。

 

現在のハードデイスク(HD)では磁気記憶にビットあたりおよそ10万個の原子が使われる。しかし従来の手法で記憶密度を高めることは物理的(微細加工)な限界に近づいており、飛躍的に高まる情報記録に対応することができない。

 

単原子メモリが実用化すれば記憶装置の大容量化、小型化で携帯デバイスの使い勝手が飛躍的に向上する。IBMの研究グループは1原子に1ビットを対応させ電流書き込みによる情報記憶の研究を行ってきた。このほど1ナノメートル離れた2つの磁性金属原子に情報を書き込み、読み出せることを示した。

 

単原子メモリでは従来の記憶装置(HD)や半導体メモリに比べて情報密度が1,000倍高い。これによりデバイスの扱える(保持できる)情報量が1,000倍に増大する。IBMが開発したメモリは磁性金属元素ホロミウムの2原子を1nm離れて配置し、その磁化方向を電流により制御して2ビットの情報を書き込んだ。情報保持の原理と書き込む手法は従来と同じであるが、対象が2原子ペアである。

 

下図に2個のホルミウム原子の磁化方向に対応させると2ビットメモリとして機能する原理が示した。ここでは磁化の評価に先端に1個の鉄原子チップを備えたSTMが使われている。

 

 

Credit: Nature

 

単原子メモリの原理と動作の実証がなされたが、市販機器への実装のネックはこの研究の環境が超高真空下、5Kであり、書き込みと読み出しにSTMを用いている点である。また単原子アレイを作る際の位置精度と欠陥の制御も実現の壁となるだろう。夢のメモリには未解決の課題が多いことも認識しなければならないが、現在の記憶装置ですら1世紀前には考えもしなかった。単原子メモリの実現にもそのくらいの時間的な余裕が必要なのかもしれない。

 

今回の報告はリーダーシップを印象付けるため、またIBMの研究開発能力をアピールするアドバルーンと取れる。かつてある会議でIBMの広告塔である研究者スパークス博士が筆者にIBMの次の戦略は有機物のスクラッチメモリーだと言った。コストを重要視したためであるが、その点で単原子メモリは(現段階では)論外のデバイスである。しかし人類が究極のサイズ(単原子)の磁気記憶デバイスの原型に到達したという意味は、IBMの金字塔として残るだろう。