2018年から運用される航空機衛星追跡システム

29.03.2017

Source: gcasummit

 

マレーシア航空MH370失踪事件は航空管制の盲点をついた事件で、世界中の民間航空関係者に衝撃を与えた。欧州宇宙局(ESA)はそのため民間航空機の衛星追跡システムによる航空管制強化の研究開発を開始した。VHF地上管制と連携する追尾システム(Iris)の改良によって、衛星を経由して地上管制が運行する航空機の位置や高度に関わらず飛行中の情報通信を保証し航空機を管制できるようになる。

 

 

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上図は航空管制が根底から見直されるきっかけとなったMH370失踪事件の際の航空管制模式図。飛行ルート上の地上レーダーで航空機は追尾され地上局を経由して飛行データが航空管制システムに送られるので範囲が限定される。またGPS衛星システムの位置情報は地上管制に送信されない。民間、軍用のレーダーがMH370を見失った範囲(下図)からも飛行を続けたことがACARSからわかっているがレーダーに捕捉されなかったため、墜落地点の特定ができなかった。

 

 

Credit: WSJ

 

インマルサット衛星(注1)を使うことにより2018年までにIrisシステムは陸海を問わず緯度、経度、高度と時間情報の4次元での航空機追尾(4D追尾)が可能になる。強力なデータリンクによって航空機の飛行を地上で常に監視することで、空の旅の安全性が向上しMH370のような事故はなくすことができる。

 

(注1)英国企業が運営する全地球衛星通信網。MH370がレーダーから消えた後もインマルサット衛星データリンクが動作し、地上にデータを送信した。

 

 

またこれにより航空会社の運行担当者、エアライン、地上管制官の負担を減らして効率の良い航空機運行支援が可能となる。2016年11月のESAと民間航空会社との連携協定でIrisシステムにインマルサット通信衛星が加わり4D追尾が可能になる。

 

航空機追尾により航空機運行スケジュール管理の精度が向上するので、運行効率化と安全性向上につながる。しかし衛星の機能を発揮させるためには、衛星本体の機能だけではなく4D追尾情報通信に強力なデータリンク能力や地上管制とパイロット間交信システム(CPDLCやADS-C)の支援が必要になる。ADS-Cは航空機のデータを定時送信する機能で、FANS 1Aと呼ぶ次世代ナビゲーデョン基準に対応した機体で採用される。

 

 

2014年夏に基地国際通信連合(ITU)は地球規模飛行管制の実現を働きかけ、2015年の国際無線通信会議で航空機情報通信に特別の周波数帯が割り振られた。周波数帯の割り振りは必ずしもスムースに認められたものではなかったが、インマルサット衛星(下図)の利用で全地球航空管制は試行できる見通しとなった。より長期的な衛星支援Irisシステムも欧州宇宙局のANTARES Phase B計画に組み込まれる予定である。

 

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