くり返されるLiイオンバッテリーの発火事故

16.03.2017

Photo: electronics360.globalspec

 

サムスンがiphone7の対抗馬として力を入れたGalaxy Note7は発火事故が相次いで回収された。サムスンのブランドに傷が付き営業的にも手痛い打撃となった。Liイオンバッテリーに特有の潜在的な危険性についてすでに記事にかいたが、787、Note7、iphoneと発火事故が続いたが、今度は機内でヘッドフォンのLiイオンバッテリーが火災を起こした。

 

事故があったのは北京発メルボルン行きの航空機の中で、オーストラリア運輸安全局によると機内火災の一歩手前だったという。被害にあった若い女性客は飛行して2時間後に突然音とともにヘッドフォンが爆発して振り向くと首付近が熱を感じたので払い落としたと話している。

 

発火したバッテリーと筐体は床に落ちたが乗務員によって消火され大事に至らなかった。旅客機はそのまま飛行したのでメルボルンに着くまで乗客は煙と異臭に苦しんだ。オーストラリア運輸安全局がまとめた事故後の対策を以下にまとめた。

 

・ 使用しないバッテリーは乗務員の指定したビンに収納する

・ 予備のバッテリーは手荷物とし預けない

・ 座席の隙間に機器が挟まっても電動シートを操作しない

・ 機器が見つからない場合は座席から離れず乗務員に連絡する

 

しかしこれらの対策はLiイオンバッテリーの危険性自体を解決するものではない。今回の事故で問題となるのは特殊な仕様でなくUL(Underwriters Laboratories Inc.)規格に沿った市販の電池であったことである。市販のLiイオンバッテリーの日本を含む国際規格がUL規格に準拠しているので、この規格を満たす製品に事故が起きたことは重大な問題となる。同型製品は膨大な数が市場に流通しているからである。バッテリーを必要とするヘッドフォンはノイズキャンセリング回路をもつものかワイアレスだが、後者の場合は小型で組み込まれている場合が多い。前者の場合は単4が2本の場合が多い。

 

Liイオンバッテリーの基本的な問題は電極間の距離が狭くセパレータと呼ばれるスペーサーが破損すれば短絡して発火することである。発火すればLiの酸素との反応で写真のように爆発火災となる。

 

これまでの例では純正でない充電器を使用して過充電による過熱で発火することが多い。また物理的な衝撃で破損しなくても、サムスンの例のように設計不良がバッテリー本体の膨潤変形で短絡を誘発する場合もある。Liイオンバッテリーが膨らんできたら交換することでリスクを回避できる。Liイオンバッテリーの正常動作には温度域が定められている。寒冷地やアウトドアでの使用には特に注意が必要である。下の写真はLiイオンポリマーバッテリーの膨潤で原因は劣化で内部にガスが発生するためで、そうなると使用できる時間が短くなるので注意して入れば早期に発見できる。

 

 

Credit:(By Mpt-matthew - Own work, CC BY-SA 3.0

 

現在使われているLiイオンバッテリーは電解液(有機溶媒)を使用しているので気化すれば本体が膨潤する原因となる。安全性を高めるためには電解質に無機質を使う「全固体電池」が必要で、現在精力的に研究開発が進められている。Liイオンバッテリーの売りであるエネルギー密度においてこれを上回る超イオン伝導体を用いた全固体セラミックス電池も(下図)実現している(Nature Energy, January, 2016)。

 

 

Credit: Nature Energy