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砂漠や干ばつ地帯では飲料水をつくることが生命線であり、農業には何らかの方法で淡水を必要とする。そのため海に近い地域では海水の淡水化や人工雲で降雨を起こすことが行われている。MITとバークレイ研の共同研究グループは空気中の水分子を凝集して純水を製造する技術を開発した(Science Apr. 13, 2017)。
空気中の水分を回収する技術は決して新しいものではない。湿度の高い空気(ミスト)を農作物の水やりに使ったり、表面を冷却してより乾いた空気から水分を回収する技術はあったが、前者は高湿度に限定され後者は電力消費が大きい。今回開発されたのは泡状の多孔質材料によるもので、低コストで対象とする湿度域が広く、場所に限定されないことが特徴。
砂漠地帯の平均湿度は20%であり、灌漑にはこのような低湿度の空気中の水分を凝集させる必要がある。新たに開発された技術ではMOF(Metal-organic framework)(注1)を用いて熱源があればどこでも動作させることができる。表面を親水性に加工したMOFパネルを太陽光を吸収する黒体の上においてパネルの下側を熱することで表面の温度との温度差が生じる。MOFの内部を多孔質とすることで表面に吸着した水分子が気化し、表面で冷やされて凝集する。
(注1)多孔質有機金属材料。個々の金属に適した有機フレームを設計することにより、触媒機能、特定ガス吸着、センサー特性などの機能性を持つ多孔質機能材料を創出することができる。
(注1)Kitaura, R., Onoyama, G., Sakamoto, H., Matsuda, R., Noro, S.- I. & Kitagawa, S. Crystal engineering: immobilization of a metallo Schiff base into a microporous coordination polymer. Angew. Chem. Int. Ed. 43, 2684–2687 (2004).
実験機(下図)では1kgのMOF材料で20%の湿度の空気に対し、1日あたり1.89リットルの純水を製造できる。最大容量はMOF材料重量の25%で、改良で50%まで可能とされる。またMOF材料を最適化すれば湿度30-50%の空気に対応させることもできる。この技術を使うことで水道システムに頼らない独立で水の製造が可能となり、太陽光発電による電力のオフグリッド化に相当する「水のオフグリッド化」が可能になる。
Credit: Science
太陽光に向けて放置するだけで水が製造できるようになれば、水資源の確保を巡る紛争がなくなり農業地を増やせるので水資源の危機ばかりでなく食糧危機も避けられる。この技術の特徴は温度差だけで機能することで、太陽熱以外にも排熱の利用ですむことである。この技術は水資源の枯渇問題と干ばつによる食糧危機回避への有効なステップとなると期待されている。水資源の営利企業も「水を買う」必要性もなくなるとしたら社会的な変革につながる可能性もある。
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