南極で発見された高エネルギーニュートリノの起源

08.03.2017

Credit: symmetrymagazine

 

陽子、原子核などの荷電粒子束である宇宙線は銀河の磁場によって軌道が曲げられるためその起源を方向から特定することが難しい。電荷をもたないニュートリノはこの点で、宇宙線観測にまさる宇宙線の起源、さらには宇宙の起源を解明する強力な観測手法となる。

 

南極の氷床でニュートリノを観測しているIceCubeニュートリノ観測所(注1)の国際研究チームは2013年に銀河系外起源のニュートリノの証拠となる高エネルギー事象を初めて観測したと発表し、世界中の理論物理研究者の注目を集めたが、フェルミ望遠鏡のγ線観測結果と矛盾することが問題であった。

 

 

(注1)氷の単結晶通の光の減衰が小さいことを利用してスーパーカミオカンデと同じ原理で氷床中に設置された複数の浜ホト製フォトマルで、ニュートリノによる発光を観測する施設、2010年に完成。2.5kmに達する氷床に開けられた垂直の穴86本に5,000個以上のフォトマルが置かれている。スーパーカミオカンデがGeV領域のイベント観測を対象とするのに対して、IceCubeはTeV領域の高エネルギーニュートリノ観測用。

 

 

Credit: IceCube

 

高エネルギーニュートリノは電磁相互作用では作られない。高エネルギーニュートリノは高エネルギー宇宙線の起源と直接関連づけられる。そのため観測された高エネルギー事象はスーパーノヴァやそれよりエネルギーの高いハイパーノヴァが起源とされた。しかしハドロン過程で発生するはずの強力なγ線が、フェルミ望遠鏡などのγ線観測手段で観測された「ぼやけた」γ線朿はこの仮説に矛盾することが未解決であった。

 

スーパーノヴァ、ハイパーノヴァでは発生するγ線密度が高すぎて、IceCubeのニュートリノ観測結果がフェルミ望遠鏡の観測結果に合わない。しかし銀河系外からのγ線は地球に到達する前に宇宙線(マイクロ波や光子)と干渉する。IceCube国際研究チームはこの干渉によって、γ線が銀河間で吸収されれば弱い強度で観測される可能性があることを見出した (arXiv:1607.03361v2)。

 

γ線が爆発的星生成銀河(注2)を通過する際に、高密度のγ線と強く干渉(吸収)し電子-ポジトロン対が形成される。これらの制動輻射(ブレムストラールング)によって低エネルギーγ線が生成される。

 

(注2)太陽の10倍以上の質量を持つ恒星を短期間(約1000万年程度)で作っている銀河

 

強い磁場で電子(ポジトロン)がシンクロトロン放射によってエネルギーを失えば高エネルギーγ線の90%がエネルギーを失ってぼやけたγ線バックグラウンドになるのは自然である。シンクロトロン放射(注3)がこれまで無視されて来たことがフェルミ望遠鏡の観測結果とハドロン過程仮説が矛盾する理由であった。

 

(注3)円形加速器の中を光速に近い速度で周回する電子(ポジトロン)が発生する軌道方向に方向性を持った強力な光子朿。赤外からγ線に至る広いエネルギー領域の光源として利用する施設がSPring-8などの放射光施設である。

 

IceCube国際研究チームはシンクロトロン放射を考慮するとスーパーノヴァやハイパーノヴァ起源の高エネルギーニュートリノとIceCube観測結果が矛盾しないことを初めて示した。下の図はγ線吸収を考慮したニュートリノ・γ線フラックススペクトルで赤い点がフェルミ望遠鏡、黒い点がIceCube観値。全γ線フラックス(赤実線)は吸収補正後のフェルミ望遠鏡データ下限(緑点線線)

と一致することがわかる(arXiv:1607.03361v2)。