国民投票で懸念されるイタリアの政治・社会・経済混乱

04.12.2016

Photo: South China Morning Post

 

 2016年12月4日のイタリア国民投票は、議会や選挙制度に関する憲法改正を問うものではあるが、結果は今後のイタリアの政治、イタリアがユーロ圏に残留・離脱に向かうか、多額な不良債券を抱えているイタリアの銀行の破綻危機が現実となるか、などイタリアの将来を大きく左右することになる。

 

 

国民投票の焦点

 賛成派は、既存の(上下両院が対等の権限を持つ)完全2院制度を憲法改正で上院の権限を大幅に縮小し、多くの法案を下院の承認で議会を通過させることができるとしている。イタリア産業連合や経営者団体は、憲法改正で経済改革や自由化が進むとして、賛成を支持している。レンツィ首相にとっては、党首である民主党が過半数の議席を確保できるので、時期首相の任期が確実となり、長期政権が保証される。

 

 反対派は、レンツィ政権の権限が大きく拡大することに反対している。しかし今回の国民投票は憲法改正より、レンツィ政権を支持するか否か、すなわちユーロ圏に残留・離脱を望むかを問う国民投票とイタリア国民は認識している。既存の政治システムや欧州委員会の政策や規定への不満(反グローバリズム)を持つ人々が反対派となっている。

 

 

国民投票後どうなる

可決の場合

シナリオ1:レンツィ政権は2018年4月又は5月に開催される次期総選挙まで続く。2018まで憲法改正はないので、大胆な経済改革は実施できない現状維持の状態にある。

 

シナリオ2:反体制、反グローバリズムの勢力が拡大して、政治不安が増す。

 

否決の場合

シナリオ1:レンツィ首相が辞任、政治混乱が起きる可能性は高い。2017年1~3月中には総選挙が開催されることになる。5SM(注1)が優勢ではあるが、上院での過半数の議席がないまま5SM政権が誕生する可能性が高い。政策や改革を実行するのは難しく、2018年の総選挙までの断定政府としての役割を果たすことになる。

 

シナリオ2:レンツィ首相は辞任しないで、現政権を解散、内閣改造で総選挙まで持ちこたえる。この場合、総選挙を2017年6月に前倒しする可能性が高い。

 

(注1)5 Star Movement(5つ星運動)はイタリアの政党名。人気コメデイアンのジュゼッペ・グリッロ氏らが結成したポピュリズム政党で近年の欧州金融危機と(マリオ・モンテイ氏が率いる)現政権の政治不信で国民の不満を背景に、急速に支持を増やしてきた。5つ星とは発展、水資源、(持続可能性な)交通、環境、インターネット社会を指している。

 

 

 反対派が勝利しても、イタリアのユーロ圏離脱はすぐに進められるものではない。総選挙までは、政治混乱が続き、イタリアは政治だけでなく、社会、経済・金融の面でも不安定な時期に入る。しかし得票率で第1位の政党が過半数の議席を確保できるルールにより、5SM政権が誕生する可能性が高くなる。5SMはEU残留・離脱を問う国民投票を公約としているため、イタリアのEU離脱が現実問題になる。不良債権処理が進まないイタリアにとって政治的な不安定さで混乱は増大する。

 

国際的に見れば英国のEU離脱、トランプ氏の大統領選の勝利、アイスランドの海賊党、フイリピンのドゥテルテ大統領選出などはいずれも腐敗した政権の国民の不満を背景にしたポピュリズムの台頭という共通点がある。