トランプ政権の予算削減でITER建設に遅れ

08.12.2017

Photo: nextbigfuture

 

国際熱核融合実験炉ITERは現在、フランスで建設が進められているが、米国のトランプ政権が大幅にエネルギー省予算を削減したため、米国から送られる構成部品が予定通りフランスに遅れない恐れがあるため、ITER米国支部は新政権とワシントンで折衝を開始した。

ITER建設はEU、日本、米国、中国、ロシア、インド、韓国の7つの国・連合が建設費を負担する国際共同体勢でフランスのカダラッシュで建設が行われている。米国は一時は建設支援を中止するなど紆余曲折の経緯があるが、これまでに10億ドル(約1,200億円)を投入、2015年までに15億ドルの負担を約束していた。

 

しかしトランプ政権は2017-2018年度予算を1.05億ドルから5,000万ドルへ50%削減、2018年度は1.2億ドルから6,300万ドルに削減した。ITER参加国には10年間の建設期間中の脱退は認められていない。また負担金に大幅な縮小があると建設に遅れが生じ、予定期間に完成しない恐れがあることから、ITER側は米国に当初計画通りの負担額を要求している。

 

実際には負担金は建設の一部の構成部品をその国の企業(注1)が製造して納入する方式をとっているため、予算の縮小は構成部品が期日に届かないことを意味する。このためフランスのマクロン首相は予定通りの構成要素を納入するようトランプ大統領に書簡で要請した。

 

(注1)米国内の600以上の企業、研究所がITER計画に参加指定している。

 

熱核融合反応を起こすには燃料(重水素と三重水素の混合物)を1億度Cの超高温に維持する必要がある。ITERはトカマク型プラズマ閉じ込め方式で日本のJT-60のスケールアップであるため、プラズマ閉じ込めの共通課題を抱える日本の核融合研究にとっても関係が深い。しかし核融合臨界条件(超高温達成とその保持時間)の実現には技術的難関が多いこと、また最近の研究でトカマク炉にはスケールメリットがないことが明らかになるなど、巨大なITERへの批判も強まっている。さらに米国負担の建設費が2017年に21億ドルから26億ドルへと増大したことで、財源確保が難しくなっていた。

 

またITERは実験炉なので発電装置を備えた発電実証炉の建設はその先になる。一方で企業を中心に小型核融合炉の研究開発も急ピッチで進められており、実用的な核融合発電では先を越されるとなれば、新政権の予算削減にも一理ある。オバマ政権時にエネルギー予算は肥大化し財政を圧迫していたことも事実で、インフラ整備を優先する新政権はエネルギー省予算を大幅に縮小する方針で、ITERの建設予定は遅れる可能性が高くなった。

 

トランプ政権はパリ議定書脱退に代表されるようにオバマ政権時代のエネルギー分野へのばら撒き政策を見直して、行き過ぎたエネルギー分野への国費投入に待ったをかけた。批判は多いが肥大化したエネルギー優遇政策とインフラ整備とを天秤にかければ、どちらを優先させるべきかは明白である。ITERの予算削減の背景には小型トカマク炉が実用化に近くなったという現実がある。2017-2018年度は重要な立ち上げ年度であるが、2018年度のプラズマ点火は困難になりつつある。10年計画ともなれば最終年度でサイエンス以外に社会・経済状態が大きく変化していることは珍しくない。