空気中の水分から水素製造する光触媒

15.06.2017

Photo: doityourself

 

貯蔵できるクリーンエネルギーとして注目される水素は、太陽エネルギーによる水分解で製造できる。MITの研究グループは空気中の水分を光触媒で分解して水素を製造できるコート材料が開発した(Daeneke et al., ACS Nano, June 14, 2017)。

 

研究グループの開発したSリッチのMo-S系触媒、MoSx (x=3.6)は表面の水分子を酸素と水素に分解する触媒特性を持つ。この触媒の特徴は表面の吸湿性に優れていることで、Mo原子あたり0.9個の水分子を吸着する。MoSx表面への水分子吸着により、フォトルミネッセンスが1桁以上増大、湿度30%で伝導度が2桁以上するなど、半導体的物性は大きく変化する。

  

Credit: ACS Nano

 

光触媒への応用では空気中の水分を吸収して水素を製造できる点がMoSxの特徴で、インクとしてガラスなどの絶縁性無機材料表面へのコーテイングが可能であるため、建材表面に水素製造機能を持たせることが可能になる。

 

光触媒のエネルギー変換効率はまだ3%と大量に水素を製造するための目安とされる10%に達していないが、建材としてビルや家屋の表面が空気中の水分を吸着して水素を製造することができれば、効率が低い分を面積でカバーし水素製造が実用化することも不可能ではない。

 

Ptなどの貴金属を使用する光触媒や水分解電極では大規模な水素の製造装置には向かない。そのため非貴金属触媒の研究が加速しつつあり、アモルファスMoSxの水分解触媒特性に注目が集まっていた(Nature Mat. 15, 640 (2016))。構造的には [Mo3S13]2-がクラスターとなり、3個の(S2)2-の中の2個が高分子に共有されていることによって、半導体物性と触媒活性に強く影響していると考えらる。

  

Credit: Nature Mater.

 

効率では太陽電池を触媒電極に接続するソーラー水分解が24.5%を達成しているが、高価な太陽電池が使用されており事業化には疑問符がつく。MoSx触媒は材料コストも低く、量産が容易なので建材パネルへ塗布した光触媒パネルからの水素回収技術を組み合わせルコとで、水素製造の目処がたつかもしれない。水素を回収して貯蔵あるいは燃料電池と組み合わせて発電する水素社会が現実に一歩近づいた。