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Liイオンバッテリーはいまのところそのエネルギー密度において競合相手がいない。しかし①充電時間が長い(EVの標準が80%充電に30分)、②充放電サイクルに制限がある(約500回)、③発火の危険性などの重大な欠点もある。パーデユー大学の研究グループは充電時間を短縮するのではなく、レドックスフロー・バッテリーの溶液交換で問題を解決する普及シナリオを提案した。
EVの普及にはバッテリー寿命と充電インフラ整備が鍵となる。研究グループはEVの本格的な普及にはバッテリー充電時間の短縮が不可欠と考えて、顧客に合わせて新型バッテリーをカスタマイズするスピンオフ企業(IF battery LLC)を創設した。
無電解質膜型レドックスフロー・バッテリーはスペインの企業の研究グループも取り組んでいるが、パーデュー大学の研究グループは開発研究の実用化に近いとしていること、従来のEV普及シナリオに変わる新しいコンセプトを提示していることが特徴である。またバッテリーの充放電サイクルを限定する要因は電解質膜の損傷であるが、研究グループが開発している無電解質膜バッテリーではその問題がない。
従来のEVは充電ステーションでバッッテリーを充電するもので、その普及にはインフラ整備がネックとなっていた。また充電時間が80%30分はガソリン車の数分に慣れたユーザーに苦痛である。パーヂュー大学の研究グループは、レドックスフロー電池の溶液を入れ替えることで、充電に置き換えることを提案している。これだと従来のガソリンスタンドのような感覚で、ホースを繋いで「充電」が数分で完了する。また充電ステーションのようなインフラ整備が必要なくなり、ガソリンスタンドの設備更新で対応できる。
Credit: paneuropeannetworks.com
上図のレドックスフロー・バッテリーではキノンとその還元体ヒドロキノンの酸化・還元反応で発電する。通常は酸化形溶液(ここではキノン)と還元形溶液(ヒドロキノン)はプロトン交換しても、溶液同士は混ざらないように電解質膜(イオン交換樹脂)で区切られる。
電解質なしという意味は、プロトン交換ができる高プロトン伝導度の高分子膜を用いる、という意味である。溶液に適切な高分子膜を用いる必要があるが、レドックスフロー・バッテリーは2種の化学物質を入れ替えるだけなので、ガソリン補給と同程度の数分で充電が可能になる。Liイオンバッテリーや燃料電池のように充電インフラの必要性はなくなる。
ガソリンスタンドで車に補充するのは2種の溶液で充電ではなく化学物質の入れ替えである。インフラを新たに設置する必要がなくなることで本格的なEVの普及が期待できる。また反応語の溶液が純粋でなくても良い(注1)とするならば、2液の反応を界面に限定することで、溶液の混合を防ぐ仕切り(電解質膜)もいらなくなる。
(注1)回収された溶液の分離と精製は充電(溶液補充)業者が行うことになる。従来のガソリン運搬車の代わりに溶液運搬車が精製工場に持ち帰り、分離精製する。