文殊の知恵は何故、正確な地政学上の未来予想ができるのか

25.06.2017

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 米国の大統領選挙や英国の国民投票の結果に代表されるように、地政学専門家でも未来予想が困難になりつつある。その一方で、「文殊の知恵」すなわち大衆が意外に正確に、地政学上の未来を正確に予測できるのは何故なのだろうか。

 

 カリフォルニア大学バークレイ分校の研究グループは「大衆の正しい予測に関する研究」(The Good Judgment Project)に基づいて、一般人でも時間をかけて特殊な教育(訓練)をすれば、専門家よりも正確な地政学の未来予想が可能であるとする研究結果をまとめた

 

 トーナメント形式で2011年から開始された「大衆の正しい予測に関する研究」プロジェクトでは、「群衆の知恵」を取り入れた正確な地政学の未来予想手法の確率を目指している。心理学、経済学、行動科学の研究者が参加したバークレイ研究グループは別の4チームとの競争を勝ち抜いて優秀な成績を収め、このほどその結果を研究論文(Moore et al., Management Science online Aug. 22, 2016)として公表した。

 

大衆による地政学上の未来予測

 この研究では非専門家集団(2,860人)から集めた344件の地政学上の事象に関する494,552件の予測データをもとにしている。予測に当たっては特殊な教育(訓練)を行なった。被験者に対する特殊な教育は以下の4項目に要約される。

 

・被験者が考えている予想と現実(同様の事象が発生する)頻度と条件の考察。

・群衆の知恵を活用するために必要な個々の意見の平均化手法。

・(可能な場合は)数学的および統計的モデルの活用。

・予測が現実と異なる理由の考察、特に統計的確率の評価の誤差リスクの検討。

 

 これらの項目に関する教育の結果、3年後に非専門家の集団は自分の予想に確信(自己評価での確度65.4%)を持つことができるようになり、実際の確度は63.3%であった。研究グループはこの結果から「大衆が確信を持つ予想は的中する」ことが明らかになったとしている。また集団が知識を持ち寄ることで判断がより正確になるとしている。

 

 研究開始当初の確信が59%で確度が57%であったのが、3年後にそれぞれ76.4%と76.1%に上昇した。この結果は被験者が自分の予測に確信が持てる場合には的中率が高くなることを示している。これは被験者が自分の予測を判断できるために必要な知識と判断手法が会得できたためである。つまり専門家でなくとも一般大衆が正確に地政学上の予想を立てることが(ある条件のもとでは)可能なのである。

 

ポピュラリズムを支える文殊の知恵

 まさに文殊の知恵であるが、これが世界を席巻しつつあるポピュラリズムの根拠と言えるのだろうか。研究の結論は大衆による予想確度の向上は予想能力が向上した訳ではなく、判断基準となる知識が増えて自分が何を知っているかという自己評価能力が教育によって高まったためだとしている。

 

 政権を支える一部の専門家集団だけが地政学上の問題を正確に把握し未来予想を立てる能力があるわけではなく、一般大衆が特殊な教育で自己認識能力を鍛えることによって専門家に劣らない未来予想ができることになる。つまりポピュラリズムには大衆が自己の知識を認識すること、すなわちどこまで自分が正しい判断ができるのか、を認識することが不可欠なことを示唆している。