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北朝鮮は米国戦略爆撃機の基地で軍人人口の多いグアムを先制核攻撃を考慮していることを認めた。ニューヨークポスト紙によれば、北朝鮮の国営新聞は8月9日、北朝鮮がトランプ政権の対北戦略を挑発行為と受け止めこれに対抗するため、中距離弾道ミサイルでのグアム攻撃を考慮していると述べた。
また米国が北朝鮮の核弾頭開発を非難していることに対抗して、小型核弾頭の開発にも成功しミサイルは核弾頭が装備されることも認めている。グアムは米国の太平洋の戦略拠点で、軍人とその家族、数1,000人が住む。
7日には北朝鮮国営ニュース放送局KCNAが太平洋に展開する米軍を標的として中距離弾道ミサイルで一斉攻撃する軍事作戦を検討中であるとした。米軍が北朝鮮を攻撃する際には空母2隻からの艦載機精密爆撃と巡行ミサイル攻撃だけでは、不足するためグアムを基地としたB-52戦略爆撃機での空爆が不可欠になるからである。北朝鮮はグアム基地がなければ自国への先制攻撃が無いことを知った上での頭脳的な対抗策である。
具体的には北朝鮮はB52が待機するアンダーセン基地を火星12(ファソン12)で攻撃するとしている。火星12(注1)は2017年5月に日本海に向けて試射されロフテッド軌道で2,111kmに達した新型の中距離弾道ミサイル。弾頭500kgを搭載した時の射程5,000kmにはグアムが十分範囲に入る。
(注1)ファソン12(KN-17)は実戦配備されている中距離弾道ミサイル、ムスダンの液体エンジンを新型に替えたもので、射程距離はムスダンと同じ500kg弾頭搭載で5,000km。
7日に朝鮮半島上空を飛行したB1B爆撃機もグアム基地から飛び立った。ベトナム戦争ではここを基地にしたB-52爆撃機が戦略爆撃を行なった。現在は主力のB-52のB1Bへの置き換え時期であるが、グアムを失うと米軍の攻撃力は著しく低下する。
何れにしてもグアム基地が消えることになれば南太平洋の軍事バランスは一気に崩れる。グアム基地が話題に上がることだけでも、南太平洋に進出しようと機会を伺う中国にとっては都合が良い。
国内メデイアは北朝鮮が小型核弾頭の開発を終えたことを伝え、米国では一部の都市がICBMの射程内に入って来たことが話題になっている。しかしこの騒動こそが北朝鮮の望んでいる撹乱戦術そのものなのである。
Credit: asahi.com
Updated 10.08.2017
北朝鮮はその後、KCNAを通じて、8月15日までに火星12、4基を同時発車し3,356.7kmを1,065秒かけて飛行し、グアム島から30-40kmの洋上に弾頭が着弾することを公表した。弾頭が空か装填されているかのコメントはないが、もし通常弾頭であっても爆発させれば、挑発行為で米国の報復を受ける。日本上空を飛行することを含めて考えれば空弾頭の可能性が強いが、少なくともこれまでの試射がロフテッド軌道で、長距離試射はできていないことから、北朝鮮にとっては誇示に格好の機会となる。
また火星12は液体式ロケットなので8月15日前に、打ち上げ場所と予定が特定されてしまう。そのため先制攻撃ができないことは明らかである。一方、もし米国が打ち上げを察知して事前に攻撃すれば全世界が見守り中で、先制攻撃を仕掛けたことになるからこれもありえない。
不足する米の戦略攻撃能力
B52は冷戦の主役となった戦略爆撃機だが、過去の爆撃機である。現在は全部で76機が残存するのみで、配備数的には戦略爆撃の能力は低い。当初の戦略爆撃は高空からの核爆弾投下であった。しかし、ソ連の地対空ミサイルと迎撃戦闘能力の高さから、核爆弾投下前に撃墜される確率が高くなった。そのため低空からの侵入と低空投下が主役となり、B1Bが開発された。B52に比べてステルス性(レーダー投影比)が1%のB1Bだが、生産機数が100機と少なく、グアムにはわずか6機しか配備されていない。B1Bはの積載能力はB52の最大24.5トンに対して56トン、主な兵装は最大23個のJDAMである。
現在は核兵器搭載能力はないが、朝鮮半島奥地に侵入してJDAMで特定の標的(ミサイル基地)を破壊する能力がある。結論を言えばグアムからのB1B爆撃機のみでは戦略的攻撃能力は低く、これと空母からのFA-18、原潜、イージス艦からの巡行ミサイルを同時使用しなければならない。それでは奇襲攻撃はできない。
結局、空弾頭装備の火星12をほとんど予告して長距離を飛行させて、グアムから安全圏に弾頭が落下するのが(もし強行したとして)、もっとも可能性が高いシナリオとなるだろう。根負けして先に手を出させるのが狙いに見えても、本音はあくまで制裁解除と米国との交渉である。日本上空通過は日本の対応能力を知るメリットもある。
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