トランプのパリ協定脱退はグローバリズムとの決別

03.05.2017

Photo: cbc.ca

 

 世界中がアメリカのパリ協定からの脱退に唖然としているが、トランプ政権の主張には一理ある。大気中のCO2による温室効果に基づく地球温暖化説が疑問視されるようになり、排気ガス削減の緊急性が薄れたことと、CO2削減の根拠が生態系保護に移りつつあるからである。

 

 とはいえアメリカ国内でも離脱のコンセンサスが得られているとは言いがたく、環境学者が反論を展開し州政府も戸惑いの色を隠せない。極論を除けば産業界を中心として公約に矛盾しない方向性には比較的楽観的な姿勢をみせている。しかしアメリカの離脱で、欧州とアメリカの利益相反が鮮明になりお互いの溝が深まった

 

存在感が強まる中国

 世界の国々に規制を求めるパリ協定だが、現実には排気ガス放出量でみる限り大半はアメリカと中国であり、もう一方の排出ガス大国である中国の動向に関心が高まっている。ベルリンを訪れた中国首相を迎えたメルケル首相はトランプ大統領の決断に不快感をあらわにした。

 

 中国にとっては今回のアメリカの離脱は好機であり、パリ協定への参加継続を表明した。しかしこれは世界の「リーダー国家」として不可欠との政治的判断からで、厳しい排出ガス量規制に踏み切るかどうかは不透明のままである。それでもドイツが中国と接近することで、欧州とアメリカの溝は深まることとなった。

 

グローバリズムとの決別で深まる溝

 トランプ大統領はホワイトハウスでの公式のパリ協定脱退表明で「グローバリゼーションがアメリカの利益を損なうもの」であるとして、暗に欧州を率いるドイツ(メルケル政権)を批判した。パリ協定の実態が(排出量税金として)アメリカの富を分配する機構になっているという批判は的を得ていることも確かである。

 

 メルケル首相は先週NATO式典でNATO加盟国の集団防衛の分担金負担逃れに言及したトランプ大統領とイタリアのG7会合で顔を合わせた各国首脳とともに説得を試みたが功を奏しなかった。

 

 G7終了時に記者会見に臨んだメルケル首相は「気候変動の話題に関する(トランプ大統領との)会話は、実りのないものであると同時に非常に困難であった」と述べた。メルケル首相はさらに「アメリカ以外のG6は気候変動に関する共通の見解を持っている。アメリカのみがこの問題への取り組み方を明確にしていない」と批判の矛先をトランプ大統領に向けた。

 

利益相反でグローバリズムに綻び

 メルケル首相は「パリ協定の取り組みへの反対がグローバリゼーションに逆らうもの」として、グローバリゼーションを代表するドイツの姿勢を明確に示した。「グローバリゼーション」を根拠にして欧州をまとめ、移民を受け入れるメルケル首相の本音が垣間見える。反グローバリズムを掲げるトランプ政権と欧州が対立し溝を深めたとしても不思議ではない。

 

 

 9月の総選挙を控えてキリスト教民主同盟の集会に出席したメルケル首相は「欧州がひとつになることの価値」を強調し、そのためにはドイツとフランスの盟友関係が重要であることを力説した。現実にはアメリカもドイツも国内問題が山済みであり、英国EU離脱や反EUポピュラリズム台頭で「欧州はひとつ」の意識にも求心力が薄れている。トランプ大統領の公約である「アメリカファースト」ならぬ「ヨーロッパファースト」は9月の総選挙で国民にどのように響くのだろうか。