電気化学が切り札となる炭素捕捉テクノロジー

26.06.2018

Photo: theecologist 

 

地球温暖化対策の一環で厳しいCO2排出量規制が計画されているが、パリ議定書に準拠した規制は現実的ではないことが明らかになるにつれて、CO2の排出削減だけでなく、積極的な除去(炭素捕捉もしくは「負の CO2 排出」)の必要性が認識されるようになった。

 

ローレンス・リバモア国立研究所の研究チームは、大気からCO2を吸収して溶液中に保持するために鉱物との化学反応と組み合わせて、電気分解で水素を製造するアプローチに着目して、電気化学的手法が炭素捕捉の本命となるとする論文を発表した(Rau et al., Nature Climate Change online June 25, 2018)。

 

ファラデーから始まる電気化学は地味な存在であったが、近年Liイオンバッテリーが急速に普及し、人工光合成(光触媒)(注1)の研究開発が活発化すると、キーテクノロジーとして脚光を浴びるようになった。電気化学的な炭素捕獲手法のメリットは大気中のCO2を減少させるだけでなく、海洋の酸性化を緩和することにある。このプロセスでは海洋中に溶け込んで豊富に存在するCO2を、重炭酸塩に変換することによって酸性化を防げる。

 

(注1)結合力の強い水の分解には外部からエネルギーを加える必要がある。熱エネルギーのほか、太陽エネルギーを直接用いる光触媒や太陽光発電による電気分解がある。前者のエネルギー変換効率は5%程度であるが、この論文のように水分解で発生するプロトンをCO2還元反応に用いる炭素捕獲に使うこともできる。また後者は20%を越えており、工業化に必要な15%をクリアしている。

 

これまでに最も注目されてきたアプローチは、バイオマスエネルギーによる炭素捕捉と貯蔵として知られている。これには、(成長する際にCO2を吸収する)樹木やその他のバイオエネルギーを発電所の燃料としてバイオマスを燃焼させ、CO2を捕獲して地下に貯蔵する炭素捕捉が含まれる。

しかし従来の炭素捕獲は高価でエネルギーコストが高い。一方、この水素製造の電気化学的プロセスは、より効率的かつより高い容量のアプローチとなる。電気化学的方法は従来の炭素捕獲と比較して50倍以上のエネルギー発生と炭素捕捉を、同等またはより低いコストで行える。

 

 

Credit: Nature Climate Change

 

電気化学的方法は実験室で実証されているが、それらをスケールアップするためにはより多くの研究が必要である。この論文の海水を電解質として用いるアプローチは海水や豊富な再生可能エネルギー、鉱物を利用できる海岸や沖合のサイトに限られる。海水の電気分解により水素を生成し、同時にCO2を除去するアプローチは実用的な炭素捕捉技術の本命となることが期待されている。