トポロジカル絶縁体の電流誘起スピンの可視化に成功

18.07.2018

Credit: Nature Comm.

 

Google、Microsoft、IBMなどの企業は、世界で最初の実用的な量子計算機を開発するために激しい競争を繰り広げており、そのための材料を模索している。シンガポール国立大学の研究チームは、量子コンピューティングをより現実に近づける新しい方法を実証した。(Liu et al., Nature Comm. 9:2492, 2018)。

 

研究チームは、トポロジカルな絶縁体や重金属中の電子の量子効果を観察し、調べる現実的な方法を示した。高度な量子計算機の開発に役立つスピン可視化ツールとして期待されている

 

量子計算機はまだ開発の初期段階にあるが、従来の技術より数100倍も高速な計算速度をすでに示している。量子計算機がより容易に利用可能になると、あらゆる分野従来の計算機では解くのが難しい問題に答えることができるようになる。この処理能力は、量子コンピュータが光を使用して動作することによって実現する。

 

古典的な計算機は、電子を使って情報を1と0の2つの状態で表現する。一方、量子計算機は、電子スピンの測定に、材料中の電子と相互作用するレーザー光を用いる。これらのスピン電子状態は、従来のコンピュータの基礎として使用されている1と0を置き換え、多くのスピン状態で同時に存在することができるため、より複雑な計算を実行することができる。

 

しかし、光と電子の相互作用は非常に複雑で、量子効果による不確実性がある。最近の研究では、量子効果を観測するための信頼できる実用的な方法が求められている。研究チームは走査型光起電力顕微鏡を使って、トポロジカル絶縁体(注1)の特定のスピン現象を初めて可視化に成功した。

 

(注1)トポロジカル絶縁体は、その内部が絶縁性であるが、その表面上で導電状態をサポートする電子材料であり、したがって電子が材料の表面に沿って流れることが可能になる。

 

研究チームは、トポロジカル絶縁体Bi2Se3とBiSbTeSe2に印加された電流は、これらの材料のすべてについて量子準位の電子スピンに影響を与え、偏光を用いてこの変化を直接視覚化することに成功した(下図)。図は Bi2Se3におけるスピン蓄積の電流依存性を示す。 a縦方向光起電力(VL)測定の実験的幾何形状。 bデバイスの一端にレーザスポットを固定することによる、VLのバイアス電流依存性。 c Hanle測定の実験的幾何学。 e横方向光起電力(VT)測定の実験的形状。 fホールの中心にレーザースポットを固定することによる、VTのバイアス電流依存性。

 

 

Credit: Nature Comm.