半導体ビジネスの行方~終わりなのか始まりなのか

21.04.2016

Photo: hothardnews.com

 

半導体業界のアナリストはモバイル機器による販売面の成長が2015年には携帯・スマホを軸とする成長が前年比で0.9%に減速するとしている。2014年は前年比で10.5%、2016年の販売予測は0.6%減である。市場規模は3,290億ドル(日本円で約35.5兆円)だがピークを2015年に超えたことが現実である。

 

細かく半導体チップの用途を見ると車載エレクトロニクスが28%から30%に増大した分野もあるが、成長をけん引してきたモバイル機器の分野では減速に入った。車載用のアナログICチップやオプトエレクトロニクス、センサーチップ、アクチュエーターチップなどは好調であるが、メモリー市場は販売が冷え込んで在庫を抱えている。実際、2016年のDRAMとNANDメモリ販売は1.8%成長となるとみられ、半導体チップ全体では0.6%減少する。その意味で下の予測は少し楽天的な印象を持つ。

 

 

Source: semiconductorintelligence

 

半導体チップの中でMPUは独占に近いインテルが圧倒的に利益を上げているが、MPU市場にも陰りも見えている。第一に近年のMPU市場をけん引してきたPCの販売が減少を続けついにタブレットに抜かれた。タブレット端末がPCに置きかわると(MPUの性能にこだわらなくなるので)インテルの優位性はなくなりそうだが、そのタブレット自体も成長が鈍化し市場が飽和に近づいたため将来は盤石ではない。サーバー市場の需要は今後も続くのでインテルの優位性は続くと思われる。

 

第二に2016年に入って微細化の限界に達し、「ムーアの法則」がいよいよ破綻した。インテルは需要の残されたサーバー市場に向けて32nmスケールのプロセッサに代わり22nmプロセッサを供給する。一般的には22nmプロセスまでは従来のプレーナ型トランジスタで対応できるが、発熱(電力密度)の点でその先は困難となるため、22nmプロセッサから3Dトランジスタ技術を持ち込んだが14nm以降の微細化はない。これまでスケーリング則に従ってMPU性能を向上してきた。MPU世代交代に対応させてメモリも増強した新型PCとOSを売り込むビジネスモデルが破綻したのである。

 

 

日本はMCUやパワートランジスタなど用途に特化したデバイスで強身を見せるが、汎用製品でないと収益性をあげるのは難しい。ファブレスに失敗したのはノウハウの流出を避けて閉鎖的になったためである。例えば共通の材料であるはずのシリコン基板も表面処理を含めて社外秘になっている。メーカー間の統廃合が上手くいかない要因の一つは「社外秘扱」が多すぎたことにある。あまりにクローズされた環境と技術の囲い込み日本企業の体質改善は今後も難しい。またメーカーも横並び状態で国内で潰し合いをしたため、ファブレスに失敗し過度の競争で次第に体力が弱っていった。ようやくメーカーが整理されて束ねられたが、すでに国際競争力がなくなっているので淘汰が続くと考えられる。

 

 

国別のシェアで圧倒的に見える米国でも事業見直しの流れが顕著化している。IBMやモトローラでさえ生産工場を手放している時代なのである。流通量が多い汎用製品を持っていないと、厳しい戦いを強いられるのが半導体ビジネスなのだ。フラッシュメモリ市場シェア第2位の東芝が共同事業を展開してきた3位のサンデイスクと合わせれば、合算でサムスンを抜いて1位となる。しかし他のアジア企業も大量に安価な製品で追い上げてくるため今後の競争力維持には疑問符がつく。3Dメモリなど自社技術の流出を防ぎシェアを守り抜こうとするなら足を引っ張りかねない原子力との連結を避け、半導体事業の分社化を視野に入れるべきだろう。

 

MPUでは圧倒的な強みのインテルですら、方向性をMPUからIoTにシフトして、IoTメーカーの買収と人員整理も始めている。サンディスクはハードディスク大手のウェスタンデジタルに買収されるとなれば、東芝との共同開発も頓挫しかねない。半導体ビジネスの統廃合が続く理由は本質的に「薄利多売」で収益性が悪いためである。

 

 

日本のメーカーに求められることは二つある。第一は独自技術で付加価値をつけること、第二はチップが使われる市場を開拓することである。後者として医療分野は成長株でありメデイカル機器は適切な分野だったが東芝は別の判断をした。沈静化している半導体ビジネスは「終わりの始まり」なのか、それとも「新しい幕があく」前の静寂さなのだろうか。新興国を中心に既存のチップ需要は継続するだろうがそれに全てを賭けるのは多大なリスクがある。重要なことは「新しい市場」と「価値観の変化の兆し」に気づくことである。ムーアの法則が破綻したことは安易な販売路線に終焉が訪れたことでもあり、消費者にとっては合理的な時代になったと言える。その意味で半導体ビジネスが正常化するきっかけになったとすれば歓迎すべきだろう。これからは売るために作るのではなく役に立つものを作る、精神が必要になる。その意味で現状は転機であり「新たな幕開け」とみるべきだろう。