国内EVの位置情報を監視する中国政府

30.11.2018

Photo: slashgear.com

 

 中国の大都市ではテスラEVをみかけることが多くなった。一流ホテルにはテスラの充電ステーションも設置されている。それでもテスラEV所有者は、テスラが常に中国の正確な位置情報を中国政府に送信している事実を知らない。監視されているのはテスラEVだけではない。中国政府は、中国のすべてのEVメーカーに位置情報を送信するよう義務付けた。これで習近平政権が自国民を監視・追跡する設備整備に新たにEV位置情報が加わった。

 

 テスラ、フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラー、フォード、ゼネラルモーターズ、日産、三菱、米国上場EVスタートアップNIOを含む200以上のメーカーが、政府の監視センターに位置情報を含む情報を送信することになる。 AP通信によると、一般的に、個人情報の送信は車の所有者には知らされていない。

 

 EVメーカーはEVだけに適用される地方自治体の法律を遵守していると主張する一方、中国政府は、集められた個人データは公的安全を改善し、産業開発とインフラ計画を促進し、補助金制度の不正を防止するために使用されているとしている。しかし、欧州、米国、日本では、この種のリアルタイムデータを収集しない。

 

 2016年以降、中国のすべてのEVは、車のセンサーからのデータをメーカーに送信するようになった。EVメーカーはビッグデータからバッテリーとエンジン機能に関する情報など61項目のデータを、地方監視センターに送信している。

 

 しかし中国で収集されたEVビッグデータは、国の定められた目標を達成するために必要な範囲を超え、外国のEVメーカーの公正な競争を妨げ、個人のプライバシー侵害になるとした批判も多い。習近平のリーダーシップのもと、中国は与党共産党の安定に対する脅威を予測し除去するために、ビッグデータとAIを整備しつつある。

 

 監視センターで特定の車両を選ぶと瞬時に、個々の車両を識別する番号とそのEVのモデル、マイレージ、バッテリーの充電量が表示されるので、例えば上海データ収集・監視センターは上海の222,000台以上の車両のドライバーの居住地と現在地を受信し、個人の行動を細かに監視することができる。

 

 北京工科大学が運営する新エネルギー車の国家モニタリングセンターもデータが共有され、全国の110万台以上の車両から情報が集まる。政府は、EVの販売台数が昨年の2.6%に留まったにもかかわらず、2025年までに販売台数を20%に増やすことを計画している。

 

 昨年、中国政府の監視下にある中国西部の新疆自治区の当局は、公式メディアによると、住民にGPS装置を設置を義務付けた。今年にはいると、警察庁公安は、RF読み取りデバイスをフロントガラスに貼り付けて車両を追跡するシステムの導入に踏み切った。

 

 米国、欧州、日本のEVも、位置情報をメーカーに送信している。この情報は車のドライバーに利便性と安全をもたらすと同時にEVとバッテリー開発に使われるだけである。政府または法的執行機関は特定の犯罪捜査の目的で個人の車両データにのみアクセスでき、これには米国では一般的に裁判所命令を必要とする。中国EVメーカーも当初上海監視センターとの情報共有に抵抗したが、政府はインセンティブをチラつかせて(メーカーにデータを送信させた。

 

 中国政府がEVデータを入手する能力によって中国メーカーは競争国よりも優位に立つ。なぜならデータを収集するコストは非常に高いからである。グローバル自動車メーカーは不利となることを知りつつ、中国の規制に準拠するためにデータを共有することを容認せざるを得ない。中国が世界最大の自動車市場であるためである。

 

 フォード、BMW、NIO、三菱自動車はEVデータ送信についてコメントせず、ゼネラル・モーターズとダイムラーは、業界の規制に準拠してデータを送信することを所有者の同意を得るとした。テスラは具体的な質問に答えることを拒否し、車両データを「法律で要求されるときに他の第三者と共有できる」と規定している購入時のプライバシーポリシーに準拠するとしている。

 

 大型航空機のコックピット会話と飛行データはブラックボックス(それぞれCDRとFDR)に記録されているが、将来はリアルタイムモニタリングに移行する。ACARSという無線通信でエアライン向けに航空機の情報送信が行われているが、NTSBは衛星を使ってあらゆる航空機の位置を追跡できる民間サービス利用を考えている。GPS座標情報(ADS-B)は、地球軌道を回るイリジウム衛星に向けて信号を送られる。

 

 航空機の安全と事故解析の側面でGPS情報収集は納得できるが、EV位置情報を政府に送信するのは疑問符がつく。中国の監視社会化はとどまるところを知らないようだ。走行状態のデータは禁止されているモスクに向かうドライバーを逮捕したり、走行距離に比例した税金を課すことにも使える。街中に設置された監視カメラ画像をAI解析して犯罪者を割り出すとしている中国政府だが、思想の自由が認められていない国家にあっては監視社会は独裁者の地位を守るためのものである。

 

 

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