ビッグデータの悪用がもたらす人権侵害

15.01.2019

Photo: indianexpress.com

 

 インターネットによって情報の水平拡散が容易になった反面、個人情報流出や悪意を持った情報拡散は人権侵害リスクとなっていることも事実である。所有権が明確でないビッグデータは、人工知能および顔認識ソフトウェアと組み合わされて、監視社会の強力なツールとなって、個人生活に侵入して人権侵害を引き起こす危険性が脅威となりつつある。

 

 これまでのビッグデータの議論の多くは、ソーシャルメディアやハイテク企業が自分のユーザーについて収集したデータをどのように使用するかが焦点となっていたが、プライバシーの侵害や人権侵害との関係にも注意を払わねばならない。政府が差別や暴力で反対意見を抑え込むことにビッグデータを悪用すれば、数億人規模で大規模なプライバシーと人権の侵害を容易に引き起こす危険性があるからである)。

 

ビッグデータによる人権侵害 

 これを防ぐには様々な方法を組み合わせて対処しなければならない。ここでは3項目にまとめてみると、第一に人権を支える基盤となる人権と技術の基金を設立し、悪用を監視し、データ分析会社と共同で、TwitterなどSNS上の誤った利用を定量化するイノベーションを奨励する必要がある。

 

 第二に、国家はデジタル時代のための新しい規範や法律を整備する必要がある。例えば人工知能など新しい技術の倫理的な開発の必要性が認識されている。また国連のプライバシーの権利に関する報告では、「政府主導の監視とプライバシーに関する法的措置」(注1)を主張している。

 

(注1)2016年12月18日、国連総会によって71/199.デジタル時代におけるプライバシーの権利が、採択された。この決議では国家は、個人のデジタル通信に介入し、かつ/または個人的なデータを集める際、また国家が、私企業を含む第三者に個人的データの開示を要求する際、プライバシーの権利に関する国際人権義務を尊重しなければならないとしている。背景には一部の独裁国家で、監視社会化を推し進め、反政府的な国民の言動を抑え込み、民族運動の弾圧を強行している事実がある。

 

 第三に、国家は庇護の権利の原則を再確認しなければならない。数億台の監視カメラと顔認識技術で人権を侵害する国が実在する。独裁国家の監視社会体制は、国民の支持を失いやがて破綻するとしても、不当な迫害を受けている大勢の人たちの人権保護が急務である。

 

監視社会へ突き進む中国

 下図は中国の監視技術と顔認識ソフトウエアの特許件数の変化で、急速に展開する監視技術を反映している。数億台の監視カメラの動画像解析を人工知能が行い、数分で歩行者やドライバーを認識できるようにまで進歩した。中国は入国に際しても全員の指紋情報を義務付けた。両手の全ての指紋の画像データと監視カメラのビッグデータを結合されればどこにいようが外国人を簡単に見つけ出し拘束できてしまう。

 

 

Credit: cbinsights.com

 

 ハイテク技術によって可能になったプライバシーの侵害の例は、中国の監視カメラと顔認識技術による監視社会化が代表的なものといえる。監視技術は、特に「罪」と法が明確に区別されていない場所では、道徳を守るためという大義名分で女性の権利の侵害に使われることが多い。

 

増大する人権侵害に使われる監視テクノロジー

2017年、サウジアラビアの裁判所が「姦通以外の性的関係、婚外、同性愛などの性的関係を犯した疑いのある人々を制裁する」ために、サイバー犯罪防止法を悪用した。監視技術により、政府は容易に個人の生活に這いこむことができてしまうため、人権侵害が組織的に行われる社会が容易に構築できてしまう。

 

 少数派を抑圧するためにプライバシーを侵害する政府は、市民の統制を維持するために拷問を使用することがある。シリアや中国はその一例で、政府が市民の動きを追跡できれば、拘束して暗殺することさえ難しくない。サウジアラビアがペガサススパイソフトウェア(注2)を使ってカショーギ氏を盗聴し、殺害を可能にしたことがその例である。

 

(注2)「ペガサス」はワンクリックで感染してしまうスパイウェアで、「録音、パスワード収集、テキストの盗み出し、通話録音、ユーザーの追跡」などを行うことができる。感染するとユーザーの個人情報が抜き取られてしまう。iOSの脆弱性が注目されている。下図に示されるように感染地域は広域だが、特に北米、フランス、トルコに多いことが特徴。

 

 

Credit: Citizen Lab 2018

 

 78人のジャーナリストが2018年に殺害され、159人が拘束されたという報告もあるが、それは氷山の一角で実際には遥かに多いとみられる。個人の発言を人工頭脳がビッグデータを解析すれば、政府に批判的な市民に関するデータが収集できる。進化を続ける監視テクノロジーによってプライバシーの侵害は、人権を危険にさらすことになるのは時間の問題だ。放っておけばジョージ・オウエルの監視社会が実現する。政府主導の監視社会化は巧妙に(安全安心の社会化という名目で)行われるので、国民一人一人がネットや監視テクノロジーが「諸刃の刃」であることを認識しなければならない。