ボーズアインシュタイン凝縮系「超固体』の発見

04.03.20117

Credit: Phys. Rev. Lett.

 

MIT研究グループはボーズアインシュタイン凝縮した超流動状態にある原子のレーザー照射によって超流動でありながら固体の特徴である長距離秩序を有する超固体(Supersolid)をつくりだすことに成功した(Nature 543, 91 2017。

 

新しい秩序相は固体の特徴である原子の長距離秩序構造と液体ヘリウムが持つ粘性が無い流体特性(超流動性)を併せ持つ。この状態は気体、液体、固体からなる従来の物質の相図では記述できない。これまで固体ヘリウムが超流動性を持つ超固体となる可能性は理論的に指摘されていたが、その存在が初めて実証された。

 

ボーズアインシュタイン凝縮(注1)で2001年のノーベル物理学賞を授与されたケターレ教授率いる研究チームはレーザー冷却(注2)と蒸発冷却(注3)を組み合わせて、ボゾン粒子であるNa原子を絶対零度近くまで冷却し、ボーズアインシュタイン凝縮で超流動状態をつくった。

 

(注1)外部ポテンシャルによりトラップされた多数の希薄気体のボーズ粒子が絶対零度近くの極低温に冷却され、ポテンシャルの最も低い量子状態を占める時に凝縮系(巨視的スケールの粒子集団)として記述されるようになる(ボーズアインシュタイン凝縮)。超流動を示すヘリウム4はボーズアインシュタイン凝縮状態にある。

 

(注2)運動する原子に対抗する2方向からレーザーを照射すると運動方向と反対向きの光圧を受けるため原子の平均速度(温度)が下がる原理で気体原子を冷却する方法。ボーズアインシュタイン凝縮には高密度が必要になりレーザー冷却の前提(希薄な気体)が成立しないため、蒸発冷却との併用が必要になる。

 

(注3)蒸発冷却では運動エネルギーの大きい原子だけを選択的に取り除くことができ、残った原子集団内でのエネルギーの再分配(熱化)で集団の温度は以前より下がる。

 

今回の研究で超流動状態にある原子のスピン軌道結合をレーザーで制御することで、ボーズアインシュタイン凝縮状態が固体の性質(原子の長距離秩序)を発現することが明らかにされた。またスピン軌道結合したボーズアインシュタイン凝縮状態は、超流動状態のまま自発的な密度変調を起こしストライプ(固体)(注4)を形成することがわかった。

 

下図cに示すようにボーズアインシュタイン凝縮相はのスピン配列の符号(下図a)の干渉が起き、重なるとレーザー光の干渉のように密度変調(ストライプ)が形成される。

 

 

Source: Nature

 

(注3)銅酸化物高温超伝導体などの強相関電子系では電荷、スピン、格子自由度が自発的に異方的な秩序(ストライプ)構造を形成することが知られている。

 

レーザー冷却と蒸発冷却を用いるMITグループの他に、スイスの研究グループもレーザー光の原子散乱を用いるこれとは別の手法で超固体の研究を進めている。これらの研究で超固体とスピン軌道結合の理解が深まることで、ボーズアインシュタイン凝縮系の持つ量子効果(ジョセフソン結合)の応用も期待されている。