燃料電池車は本命なのか

17.04.2017

Photo: idea-webtools

 

いち早く燃料電池車(FCV)を市場に送り出したトヨタ、ホンダに続いてメルセデス・ベンツが2017年からFCVを市場に投入する。HVからPHVへの進化に割って入った形のEVが予想以上の速度で普及し始めた現在、長期シナリオで本命とされるFCVの市場投入がいよいよ本格化する。FCVの早期市場投入でEVのような成長となるのかどうかに注目が集まる。

 

 

HVに陰りが見えPHVとEVを一括りにすれば、EV(PHV)とFCVの差はエネルギー貯蔵方式がLiイオンバッテリーか燃料電池かの差になる。FCVを水素エネルギー燃料としてEVと差別化することが多いが、モーターの電源選択に差があるだけである。化学エネルギーで発電する点では同じだが、FCVはエネルギー貯蔵媒体が水素で、インフラを含めた「バッテリー性能」の優劣が両者を含めた広義の電気自動車の普及を決める。

 

ブルームスバーグの調べでは2015年のFCVのシェアは0.6%にすぎないが、前年度に比べると70%の成長率となる。この急激なEV販売増加は2010年時より60%も低下したLiイオンバッテリーの市場価格が大きく貢献した。2030年までにさらに1/3にバッテリー・コストの低下が予測され2040年での新車販売の35%(4,100万台)がEVとなると予測されている。

 

 

ではこのままEVの普及が進み、FCVの出番はなくなるかといえば、結論を下すのはまだ早い。インフラで先行した感のあるLiイオンバッテリーにも弱点があり、一方で燃料電池の技術も日進月歩で進歩し続けているからである。現実にトヨタに続いてホンダ、ヒュンダイが市販車を送り出している他、BMW、アウデイも戦列に加わる。2017年の市場投入を明言したメルセデス・ベンツへの対抗で、ドイツメーカーのFCV戦略に変化が出ることは間違いない。

 

ヒュンダイのFCV(ix35)は6日間連続走行で9,810kmを走破したが、その時の一回の水素充填で最長となる643kmを達成している。本格的な大手メーカーの参入で燃料電池の改良で走行性能がさらに増強され、インフラ整備が進めばEVと競合する時代が来る可能性もある。

 

 

現時点では電気も水素も製造過程を含めれば完全なクリーン・エネルギーとはいえないが、再生可能エネルギーによる製造でクリーン・エネルギーの達成も夢ではない。FCVについては脱炭素=水素社会という大きなエネルギー変革の一角を担う技術であり、EVの先にある未来社会の象徴でもある。トヨタのFCVがMIRAIと名付けられた理由はここにある。

 

Liイオンバッテリーはイージス艦や潜水艦に搭載される一方で、FCVに並行して現在のターボファンエンジンに代わり水素をエネルギー源としたモーター駆動とする試みが、列車や航空機でも活発化している。航空機においては電気回路が多くなり消費電力も増大したため、Liイオンバッテリーの重要度が高いが、モーター化には大電力が必要で燃料電池が有利になる。これらを含めるとEVもFCVも内燃機関の終焉という「動力革命」に必要な重要なステップなのである。その意味でEVとFCVは競合と同時に協業という側面があると考えるべきだろう。