気候変動と紛争の関係性は成立するか

14.02.2018

Photo: scimex

 

 気候変動を世界各地の紛争と関連づけ、気候変動を強く印象付ける議論がある。メルボルン大学の研究チームは気候変動と紛争の関係に関する過去の論文は気候変動と紛争の関係性を論じた論文には偏向した対象についての事例が多く、事実が湾曲されているとしている(Adams et al., Nature Climate Change online Feb. 12, 2018)。

 

 地球の平均気温上昇の数値的評価以上に不完全な地球モデルによる国連(IPCC)の予測は誤差が大きいが、気候変動と紛争の関係性を肯定する論文やIPCC報告書(IPCC Climate Change 2014: Impacts, Adaptation, and Vulnerability(eds Field, C. B. et al.) (Cambridge Univ. Press, 2014).)

では一部地域が温暖化、乾燥化すれば農業生産が落ち込み食糧難で紛争が生まれると結論づけている。例えば地球温暖化がアフリカの紛争やシリア内戦(注1)の背景にあるとした論文が有名である。

 

(注1)シリアでは2006年後半からシリアの大規模な干ばつが、シリアの水資源を窮乏させて農業生産を悪化させた結果、農村地区に住む150万人の住民を、都市地域への移住に向かわせたとする論文が2015年に発表され話題になった。

 

 研究チームは1990-2017年に発表された、気候変動と紛争の関係性を肯定する論文100報を対象にした調査の結果、論文の結論が大幅な偏向したサンプリングによるものであることを明らかにした。例えば多くの論文が大規模な紛争を対象とし、地域的な小規模の紛争は無視している。

 また取り上げた紛争が研究に容易な英語圏に限られ、本来は重要な対象となるべき紛争が取り上げられていない。下図左は過去の研究で取り上げられた紛争国の記載数上位10位、右側は1989-2015年の期間での紛争国と死者数。太字表記は2度以上取り上げられた国。

 

 

Credit: Nature Climate Change

 

 また研究チームは過去の偏向した不公平な調査研究が、かつてはイギリス帝国の一部であった英語圏の国々を再び「植民地的ステレオタイプ」(注2)とみなす恐れがあるとしている。これまでの気候変動と紛争の関係性を論じた論文は対象事例が偏向しているというサンプリング手法に問題があり、読者を誘導しているとことになる。

 

 政治的な圧力と気候変動(温暖化)を正当化するために、紛争との関係が利用されたのである。都合の良い事例のみを使って事実を歪曲した一部のアカデミズムの責任が問われる。また紛争が気候変動によるする説明は政治的要因を隠し、政治的責任の所在を隠すのに好都合であったが、学術論文が利用されたことはアカデミズムの汚点である。

 

(注2)植民地支配を正当化する異文化に対する先入観。