大気中のCO2還元触媒はエネルギー危機の救世主となるか

09.11.2018

Credit: Joule

 

ハーバード大学のローランド研究所の研究チームは、再生可能エネルギー(電力)を使ってCO2をCOに還元技術を高度化し実用化システムを開発した(Zheng et al., Joule online Nov. 08, 2018)。研究チームが開発したシステムは石炭火力発電所やCO2を多く生産する他の産業と接続すれば、排出されるガスの約20%にあたるCO2を原料として、廃棄物からカーボンニュートラル燃料や化学物質を生産することができる

 

このシステムは研究チームが2017年の論文で発表したものを改良し、より低コストで、より効率的に動作する。10cm角のセルは、1時間あたり4リットルのCOを生産することができ実用化の課題(コストとスケーラビリティ)をクリアしている。以前の研究(Jiang et al., Chem 3,1, 2017)では、CO2をCOに還元するために選択的なニッケル単原子触媒用いたが触媒材料の合成コストが高かった。ニッケル単原子を固定するサポートがグラフェンであったためだ。

 

出発点はニッケル単原子触媒

この問題に対処するために、研究チームはカーボンブラックナノ粒子を採用した。静電気引力を利用してカーボンブラックナノ粒子の欠陥(負に帯電した)にニッケル原子(正電荷)を吸収させ低コストの触媒材料を合成した。

 

以前はバッチあたりミリグラムしか生産できなかったが、これにより現在はグラム単位の製造が可能になった。将来はスケールアップでキログラムからトンオーダーの触媒材料を製造が可能である。

 

もう一つの課題は、以前のシステムではチャンバー内の電極を使用して水分子を酸素とプロトンに分離することである。酸素が分離すると、溶液中を伝導したプロトンは別のチャンバーに移動し、そこでニッケル触媒の助けを借りて、CO 2と結合して分解し、COと水となる。その後、水は最初のチャンバに戻され、再び分解され、サイクリックプロセスが再開される。

 

問題は、そのシステムで消費するCO2は水に溶解したものだけであり、触媒を取り囲む分子のほとんどは水であるため、微量のCO2しか利用できず効率が悪かった。反応速度を高めるために触媒に印加される電圧を増加させることでは、(CO2を利用するプロセスではなく、)水分解プロセスを促進することになる。

 

電極に近いCO2が消費されると、電極に拡散する時間がかかるが、電圧を上げていくと、周囲の水が反応して水素と酸素への分解反応が促進する。解決策は比較的単純で水分解を抑制することで、このため研究チームは触媒を溶液中で使用するかわりに、水を水蒸気に置き換え、高濃度のCO2ガスを供給することを思いついた。

 

以前のシステムが99%以上の水と1%以下のCO2を利用していたとすれば、それを完全に逆転させ、97%のCO2ガスと3%の水蒸気を用い、イオン交換膜を使用して水の移動を補助した。以前は約10ミリアンペア/平方メートルで動作していたが、100ミリアンペアまで簡単に増設することができる。

 

実用化には、数1000時間の連続稼働が必要だが、現在は数10時間でギャップがあるが、CO2還元触媒と水分解触媒の詳細な分析によって、これらの問題を解決できると考えられている。

 

明るい未来はサイクルエネルギー

70年代は原子力に未来のエネルギーを託す「明るい未来」の時代であった。その後の原発事故や核物質の処理と経済的理由で、発展途上国を除いては原子力には未来を託せると考える人は少ない。地球環境の保全を考えれば、自然エネルギーを利用するか、発電所や重工業から大気に放出されたCO2のような温室効果ガスをカーボンニュートラル燃料や化学物質に変換して、再利用する"サイクルエネルギー"が究極の”サイクルエコノミー”となるかもしれない。

 

 

関連記事

燃料電池用の非白金系単原子触媒

水素化反応効率100%の単原子バナジウム触媒

単原子触媒設計の一般則