シリアに新たな戦果拡大のリスク

17.04.2018

Credit: BBC

 

 米国の105発の巡航ミサイル攻撃の中心は76発が集中した化学兵器製造拠点とされる。米英仏の攻撃は完了したものの、シリアに新たな戦争拡大の火種が生じている。

 

イスラエルがホムスを攻撃

 4月16日シリア軍は公式声明でイスラエル空軍がシェイラト空軍基地とホムス地方周辺に向けてミサイル攻撃を行ったことを認めた。声明ではシリア防空システムは8発のミサイルを迎撃したとしているが、イスラエル空軍機を攻撃したかどうかについては触れていない。米国はこの発表を否定している。

 

 また別の報告によるとシリア空軍はダマスカス周辺でレバノン東部から侵攻した疑いのあるイスラエル軍用機に複数のミサイルを発射した。その後シリア軍はイスラエル軍機を標的として防空体制に入った。

 

米国とヨルダンの軍事演習

 米国とヨルダンは、国境警備から模擬化学兵器を想定したテロリズムに対抗するため、12日間の軍事演習”Eager Lion”を開始した。

 

 Eager Lion訓練は、米国、フランス、英国がダマスカス近郊の化学兵器製造拠点とされる施設に巡行ミサイルを発射た翌日から始まった。米国側司令部は、演習が化学兵器を想定したものであることを認めた。訓練は米軍7,000名が参加して毎年行われているが、今回は特にシリアの化学兵器使用を意識したものとなる。

 

軍用資材を追加配備するロシア

 プーチン大統領は、米国とフランス、英国のアサド政権に対する軍事的措置に対抗措置があると警告した。実際に化学施設攻撃の後、米国および同盟国側とロシア側双方に軍事行動が報告されている。

 

 トルコのボスポラス海峡で上陸用舟艇が発見され、搭載されていた戦車、救急車、IEDレーダーが15日にシリアに到着した。また高速小型巡視船、架橋車両、トラックを運ぶ輸送船も確認された。

 

 アサド政権が化学兵器を使用したとする物的証拠はないままで戦争に踏み切ることはあってはならない。かつて大量殺戮兵器の嫌疑のみで戦争を開始したブッシュ政権の二の舞とならないよう、化学兵器使用の物的証拠(化学分析)公表が先決である。

 

 イラク戦争では国民を動かしたシナリオも政府に加担したメデイアも陳腐化し、当時と比べれば戦争の口実を見つけて説得できる可能性は低くなったことは幸いである。 

 

 

Updated 19.04.2018

イラク戦争の教訓

 トランプ大統領はミサイル攻撃の後にTwitterで誇らしげに伝えた「ミッション・コンプリート」は、オバマ大統領がかつて勝利宣言をした際に用いた表現である。しかしその後のイラク戦争の泥沼化で米軍兵士4,000人と100万と言われるイラク軍が戦闘で死亡した。中東の戦争に終わりは無いことを歴史が証明しているが、トランプ大統領自身が「歴史を繰り返している」ことを認めている。

 実際にイラク戦争の始まりが現在のシリアに酷似している。イラクでは国際査察団が大量殺戮兵器の所在を確認する前に、ブッシュ政権は爆撃を開始した。査察が完了して大量殺戮兵器が無い事が確認されて、空爆がなかったら戦争の犠牲者も空爆直後に活動が始まったISの一連のテロ事件も防げたとするのは「たられば」の議論でしかない。しかしドウマ市でのアサド政権の化学兵器使用がOPCWの現地調査によって確認される前にはじまった攻撃が拡大して、第2のイラク戦争になるリスクを止めなくてはならない(Ron Paul Institute)。

 

妨害されるOPCWの現地調査

 4月18日にOPCW先遣隊となる国連の安全保障チームが狙撃されたため、ダマスカスに到着予定だったOPCWの化学兵器調査チームの調査開始が遅れている。安全保障チームは週末にOPCW調査チームと合流して今ダマスカスでの調査について検討する予定。一部メデイアはOPCW調査チームがドウマ入りを果たしたと伝えたが、シリア政府は先遣隊の安全保障チームだとしている。

 

Credit: AFP

 

 安全保障チームへの小銃射撃と爆弾攻撃では負傷者は出ていない。OPCWの調査が妨害されている事が明らかになったため、英国のメイ首相は証拠隠滅を図るとしてシリア政府(とロシア軍)を避難している。ロシア軍の化学兵器調査チームはドウマの反政府軍研究所でマスタードガスの製造跡を発見し、容器が4月7日に公開された化学兵器の容器に酷似しているとしている。つまり(確固たる証拠のない)毒ガスがアサド政府軍ではなく、反政府勢力が起こしたことになる。攻撃が誰によって行われたかは米国と同盟国の主張と真っ向から食い違う。

 

 シリア政府が化学兵器にこだわるのはイスラエルの侵略の抑止力と考えるからだが、シリアの脅威はイスラエルだけではない。サウジアラビアはイランの支援を受けてアサド政府軍と戦っているスンニ派の反政府グループを支援してきた。サウジアラビアのアデル・アル=ジュベール外相はオバマ政権が認めなかったスンニ派勢力の派兵を提案している。

 

 今回のシリア攻撃をきっかけにイスラエル、サウジアラビア(イラン)が参入する中東紛争に発展する恐れがある。それを防ぐにはOPCWの調査を徹底するのが先決であるが、それを待たずに攻撃したところまではイラク戦争と同じなのである。別記事で取り上げたロシアの対空ミサイルS-400とその前進であるS-300の防空体制が、今回の攻撃では作動しなかった理由は、巡航ミサイルの標的がロシア軍でなく、前回同様、化学兵器施設であったためである。しかし製造拠点が壊滅してもすでにシリア軍が貯蔵している化学兵器は貯蔵所(上図)を破壊しなければ、毒ガス兵器を根絶できないにも関わらず、それを避けたことになる。

 

 後者の破壊は(アサド政権のイスラエルとの国境維持の紛争抑止力を失うことにはなっても)、ロシア軍への毒ガス使用嫌疑を払拭する上でもロシアは黙認せざるを得なかった。しかし今後、ロシア軍施設への直接的攻撃がもしあれば、シリア防空システムが稼働し、大半が撃墜されることになり、エスカレートしていくことは避けられない。

 

 

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