海軍発海水ビジネスはEVを変えるか

Sept. 28, 2014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 化石燃料に別れを告げる時が近づいている。おおげさにいえば、原発に頼らないで再生可能エネルギーに未来を託すのは生き残りをかけた人類が挑む最大のテーマかも知れない。そのひとつの低燃費車EVに海軍発の海水ビジネスが関係する。



 現在はHV(プリウス)の販売が好調で、トヨタの売り上げに寄与しているが、低燃費車としては他にもクリーンデイーゼルや小排気量車が伸びているし、HVに代わるのはEV、その先が燃料電池車(FCV)というのが業界シナリオとされる。王道の燃料電池車の研究はホンダをはじめとして、日本の技術は進んでいるようにみえるが、実は伏兵があった。これらは無視すると取り残されるかも知れない。


 NRL(Naval Research Laboratory)という米海軍の研究所が、海水からCO2とH2をとりだして発電する、海水発電機を開発したことはすでにかいた。一方では海水や空気から電気エネルギーを直接取り出すEVが現れたこともかいた。
ここでは直接関連を持つとは思えなかったふたつがつながりを持つ事についてかくことにする。海水で車を動かす提案は古い。



 2014年7月のスイスジュネーブモーターショウでnanoFLOWCELL社は海水を使うレドックスフロー型蓄電池(注)を用いて、400Lの海水から電力を引き出して600km走行できるスポーツカーQUANT e-Sportlimousineを発表した。テスラ社の市販スポーツEVも日産リーフのような「いかにも低燃費車と思わせる控えめなデザイン」と異なり、テスラ社の"タイプS"は華麗なデザインでありながら、れっきとしたEVでしかも長距離走行が可能であった。nanoFLOWCELL社は2013年にリヒテンシュタインに設立されたEVメーカーだが、燃料電池の研究はスイスのチューリッヒにあるnanoFLOWCELL Digi LaboのNinzio La Vecciaというイタリア人研究者の開発した技術を量産車に結実したものだ。

 

 チューリッヒに1996年につくられた研究開発センターを経て、2013年に会社ができると、驚くべき速さで翌年の2014年のスイスのジュネーブで開催されたモーターショーでデビューを遂げた。完成度は素晴らしく高いものの、駆動系は秘密のベールに包まれている。

 

 

 ここでひとつの疑問が生じる。車の開発には時間と設計者集団が必要だがその開発資金と組織はどこから来たのか。1996年にチューリッヒに作られた研究開発センターはJunos Technologyが出資したが、この企業は米国海軍艦艇のためのIT秘術と関連のソフトウエアを一手に引き受けるイタリア人がCEOの軍事ITソルーション巨大企業であった。

(注)レドックスフロー型蓄電池
 2種類の(正負)イオンを陽イオン交換膜で隔て、両方の溶液に設けた電極上で酸化(Oxidation)反応と還元(Reduction)反応を同時に進めることによって充放電を行う化学反応電池。

 


 海軍向けの民間軍事企業だとすると、海水テクノロジーをキーワードとして米国のNRL(Naval Research Laboratory)が最近、発表した海水からC02とO2を取り出す燃料電池で大規模発電システムをつくる技術と深く関わるのもうなずける。海軍の狙いは海水を使う燃料電池を原子力に置き換えた低燃費艦艇だが、民間事業を興せば低燃費車を販売して利益を得る事が可能なのである。

 固形電池の構造を最適化して効率をあげるだけでなく、化学エネルギーを変換して電気エネルギーとする点でありふれた電解質(海水)を利用する空気電池に目を向けることは発想の転換である。誰でも小学生のときに「みかん電池」を体験したであろう。幸いにして日本は外洋に囲まれているし海水は無料で使える。海水を利用した発電スキームは他にも多々有るので、注目する必要がありそうだ。いずれにしてもハイテクIT企業関連の新興ビジネスに成功例が多いのは意思決定の早さ、資金力、技術者集団の統率力でありこれらは日本企業の弱みの部分である。