クリーンデイーゼルと車の多様性

Oct. 13, 2014

 

 

 HVがエコカーの代名詞、またEV、FCVは次世代、次次世代エコカーとして扱われる日本。しかし欧州ではHVは思うほど売れない。何故か。伏兵のデイーゼルが燃費でいえば互角以上の戦いをしているからだ。そういえば欧州の友人の車でATに出会ったためしがない。MTをもって車とする頑固さには理由がある。

 


 起伏が激しい欧州では「人間AT」がきびきびした運転にかかせない。また、それで燃費が良くなると信じているからだ。たしかに落ちたら命はない山道を猛スピードで駆け抜けるときにMTに命を預けるしかない。ヒュンダイ車では怖すぎる。また欧州では燃費にこだわるタクシーのほとんどがデイーゼル車だ。低回転で大トルク特性は重い車を狭い石畳の街で加速するにはぴったりなのである。

 


 一方で日本でもクリーンデーゼルへの道が模索されている。石原都知事がトラックの排気管から採取した真っ黒な粒子状物質(PM)を見せながら、デイーゼル車の排気ガス中に含まれる有害物質をTVで批判の対象とした。大型トラックなどのデイーゼル車の後ろにいると悪臭と視界が妨げられるほどの排気ガスに悩まされる。しかしデイーゼルエンジンは低濃度の燃料を使用していて、燃焼効率さえ良ければ排出される有害物質は少ない、つまりクリーンだという。では何故、日本ではデイーゼル車は悪役で売れないのだろう。



 まず日本で燃費が安いのにデイーゼル車が普及しないのは、排ガス規制が厳しくてクリアするために車両価格が高いことがある。それに加えてHVが走り回る今日、大多数のユーザーは有害物質をまき散らして走る「負のイメージ」を背負いたくないのである。反対に誰もがHVを運転すれば環境保全に寄与しているつもりになっている。(化石燃料車であることには違いが無いのに)

 


 最近、クリーンデイーゼルという言葉を耳にする機会が増えた。その意味はふたつあって、ひとつは有害物質、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)が少ないこと、もうひとつは2002-2009年までの期間で達成すべき排ガス規制値をクリアしているという認定である。CO、HC、NOxなどのガス濃度を最先端触媒技術を用いて取り除き、PMはフイルターで除くなど先端技術を駆使することにより、国内外メーカーが規制をクリアしてクリーンデーゼルエンジンを世の中に送り出した。



 マツダは圧縮を下げるという常識を覆す設計で、NOxを減らしながら、燃料吹き付けの効率を上げるという芸当をやってみせた。技術を駆使したクリーンデイーゼルはガソリンエンジンと比較すると高回転での出力(馬力)では劣るが、低速回転時の大トルクによって加速性能は遜色がないレベルに達している。メルセデス・ベンツ社ではこれをブルーテクと呼ぶ。何故、ブルーなのかは後述する。最近訪れたベンツ博物館で探したがこの技術に関する展示はなかった。つまり最新テクノロジーなのである。

 

 
 国内メーカーで最初に規制を突破した日産はSUVを発売し、同じくSUVメーカー、三菱もこれに続く予定である。注目すべきはホンダも主力車種アコードのクリーンデイーゼルを2011年に発表する。また国外メーカーではアウデイとメルセデス・ベンツは規制の一部をクリアした車種を販売中であるが、最も強力な規制をクリアする予定だ。


 クリーンデイーゼルの秘密はふたつの最新技術にある。ひとつは尿素水溶液(アドブルー)で、NOx触媒の直前でこれを噴射し、触媒内でNOxを窒素(N2)と水(H2O)に分解する。もうひとつは「NOxトラップ」。こちらはNOxを一時的に吸着するトラップ触媒を使い、燃料が濃い燃焼を瞬間的に行うことで、排出ガスの成分とNOxを化合させ、窒素、二酸化炭素、水を生成するというものだ。

 


 クリーンディーゼルはこのどちらかを用いるが、興味深いのはドイツのアウディやメルセデス・ベンツはアドブルー(AdBlue)方式、国産車はNOx トラップ方式で、ダークホースがマツダの新型エンジンSkyActiveである。HVとクリーンデイーゼル車はそれぞれの特徴を生かして相補的に使われていくだろう。車の社会では多様性が必要なのだ。

下はマツダのSkyActiveエンジンとシュツットガルトのベンツ博物館。