世界に広がる感染症(最新情報Part 2)

Apr. 18, 2015

 

 

 これまで抗生物質は人間や動物の治療、家畜や養殖魚の餌に混ぜて使われてきた。今、従来効果があった抗菌薬に対して効果がない耐性菌の出現の事例が世界中で増加している。


 長年の過剰な服用や誤使用の結果、細菌が抗菌薬に耐性を持つように変異したとされる。抗菌薬には、バクテリア、寄生生物、ウイルス、真菌類に対する抗生物質、抗ウイルス薬、駆虫薬、抗真菌薬が含まれている。世界中で耐性菌(Antimicrobial Resistance: AMR)の出現に危機感が増していることから、2014年にはWHOは耐性菌に対する実態調査と対応策の検討を始めた。



 英国でもデーヴィッド・キャメロン首相が発足した調査チームによる報告「抗菌薬耐性レビュー」(Review on Antimicrobial Resistance)が発表された。その中で、耐性菌による死亡者は2013年にはヨーロッパと米国だけで5万人、世界全体で少なくとも70万人以上であった(下の図)。耐性菌は地域によっても違い、欧米以外は正確な統計がないことが、世界における実態の把握を難しくしている。



 

 特に問題視されているのが、新興国で見られる抗生物質の過剰使用である。2000〜 2010年の10年間で世界の抗生物質使用が40%増加、そのほとんどがBRICS諸国におけるものであった。そのため、新興国においても耐性のある結核、マラリア、赤痢、HIVが出現している。

 

 報告はさらに、2050年までの耐性菌による影響の予測を出している。対応策がなければ、2050年には世界で1000万人の死亡者が出る危機的な状況になるとしている。これは、ガンによる死亡者820万人を上回り、世界最大の死亡原因となるのである。また、経済的損失は100兆ドルに上るとされる。

 

 

 抗生物質に依存する医療システムや治療方法にも多大な影響を及ぼす。抗生物質が効果を失うと、簡単な手術も危険を伴うものとなる。現在のガン治療で行われている放射線治療もリスクの高い治療法となる。

 

 報告書は、耐性のある抗菌薬に代わる新薬の開発が重要と指摘しているが、果たしてそれが最善の対応策かは疑問が残る。