アメリカとキューバが急接近−意図は何か

Apr. 5, 2015

 

 アメリカのオバマ大統領とキューバのカストロ議長が10日から開かれる米州首脳会議の場で、国交正常化交渉が始まって以降、初めて接触する見通しとなった。1961年に国交を断絶し輸入を全面禁止としたアメリカにとって翌年のキューバ危機で両国の関係は最悪となって以来だが、両国の意図は何なのか。


 両国にとって1991 年のソ連崩壊による冷戦終結は大きな変化をうながした。キューバにとっては政治的後ろ盾であり同時に貿易相手国の筆頭であったソ煉との決別は、経済崩壊をまねいた。表面的に国交がないといっても目と鼻の先にあるフロリダ州には不法移民や亡命者が後を絶たず、1993年以降は米ドル所持も許される等、実質的な相互関係は強くなって行った。

 

遅すぎた議長交替

 2008年にはフイデル・カストロ議長の健康が悪化し、議長の座を弟のラウル・カストロは規制緩和策をとり、2011年には部分的な市場経済も導入された。ソ連との石油交換貿易のかわりにベネズエラのチャベス政権から石油の安価な手教を受ける等、南米各国とも友好関係を築いていた。2014年にオバマとラウル・カストロはアメリカとキューバの国交正常化に向けた交渉を開始することを約束した。


 ここに来て国交正常化の努力が双方で加速している。1月以降両国はすでに3回に渡り国交正常化に向けた高官協議を持った。正常化への熱意はしかしアメリカの方が急いでいるようにみえる。イランとの核開発交渉についてもオバマがイランの全面的な同意を得たという国民と全世界に向けたメッセージは実際には進展がないに等しいアドバルーンであったことからも、米国の対外政策は閉塞感が大きい。


キューバの思惑

 キューバとの国交正常化には閉鎖されている大使館の設置時期など高官レベルでの具体的な成果はでていない。キューバの慎重な姿勢は国交正常化をアメリカに屈服したととられたくない意向もある。キューバの軟化の背景には経済の立て直しがある。国交正常化により米国投資を呼び込んで活性化しようとする社会主義からの脱却の意図である。


 社会主義の末路として疲弊した経済が貧困化は深刻だが一方では貧富の格差も拡大し国民の不満は高まっている。



 ラウル・カス トロ議長は2011年の共産党大会において、社会主義体制の原則を維持しつつも、経済・社会に関する一層の改革を進めていくことを目標とし経済、貿易、投 資、農業、エネルギー・工業、科学技術、観光、運輸、建設、水資源、医療、教育等における5年間の国政方針を決めた。


 キューバを愛したヘミングウエイはアメリカで最もキューバに近いキーウエストに住んだ。ヘミングウエイならずとも豊かな自然に恵まれたキューバ観光が許可になれば年間100万人とも予想される観光客で活気がでることは確かだ。キューバは社会保障制度、医療に力をいれており、医師6万6000人が水準の高い医療を行なっている。そのため南米でも平均寿命が長い(76歳)。国民は平均寿命が29歳と若く貧困ではあるがホームレスのいないこの国の発展が加速される要素が大きい。



観光立国を目指すキューバ

 キューバには古いアメリカ車(上の写真)がいまでも走り回っている。国民にはアメリカはあこがれの存在に変わりはない。国交正常化は両国の首脳会談で一気に現実化するだろうが、アメリカに渡ったキューバ人はアメリカ社会経済の変遷を知ることになる。皮肉なことに1960年代に輝いていた自由の象徴のアメリカはもうどこにもない。


 キューバは、米国との国交正常化交渉を進めつつ、「社会主義路線は断固として維持する」としているが、社会主義の経済疲弊に悩むキューバ。一方で金融資本主義の弊害と国家財政破綻の危機にあるアメリカはお互いにメンツを捨てて実をとる勝負にでたのかもしれない。

 

 しかし問題はそう簡単ではない。キューバに利権を持とうとする中国の影響も否定できないからだ。キーウエストからはボートで行き来できる距離にあるキューバがソ連と入れ替わりに中国に近づく前に国交正常化しておくことはアメリカの権益に有用であるいうまでもない。日本でいえば琉球のような位置関係である。

 

 中国だけではない。キューバの潜在的な資源や農産物の価値を知る国々が投資に積極的である。中国キューバ両国首脳はキューバ資源開発、インフラ整備などに投資について合意したし、ブラジルなど南米各国も食指を伸ばしている。キューバの砂糖(注)は質が良く、葉巻は高級品、ニッケル等鉱物資源も豊富とくれば将来性が高い投資先である。一方でアメリカとの国交正常化にはグアンタナモ返還等の深い溝もあり簡単に話が進むとは思えない。

 

(注)サトウキビ畑の労働者に飲まれていたラム酒がベースの「モヒート」は有名なカクテルで、これを求めてキューバに密入国する愛好者がいるほどである。ハバナのモヒートにはHavana Club社のラム酒が使われる。

 

 

 いずれにせよ今後の首脳会談の進展次第で方向がはっきりする。下の写真の建物のゲバラは過去の遺物なのかそれとも、もくろみがあるのか。