宇宙ビジネスー起業家の行き着く先

Aug. 26, 2014


 

IT企業CEOの新しいターゲット

 Elon Musk, Paul Allen, Jeffrey Bezos, Richard Branson,これらの名前に共通することは、一体なんだろうか。Paypal創始者のElon Muskはテスラモーター社のCEO、Paul Allenはマイクロソフトの共同創業者で現在は投資家、Jeffery BezosはAmazon創業者でCEO、Richard Bransonはご存知、バージンアトランテイックなどバージングループ会長で、Sirの称号を持つ。EV、ITなど業種は違うが、新規ビジネスの創業者で成功したあと、新たな展開を求めてきた。


 そんな彼らが同じ事業でぶつかり合う。宇宙ビジネスだ。成功者の思考回路は同じらしいが、ライバルのいない事業を開拓するわけにはいかないようだ。彼らは民間人が手の届く擬似的な宇宙旅行を実現してビジネスとすることを本気で考えているのだ。



宇宙ビジネスとは
 宇宙ビジネスというと宇宙旅行会社と同意義にとられそうだが、事情は全く異なる。しかしその市場は1%の富裕層に限られているとしたら顧客を増やすにはもちろん限界がある。しかし宇宙ビジネスでは共通の大気圏外への運搬手段が必要で、宇宙旅行の先にある想像もつかない展開を見ているのかもしれない。例えば宇宙旅行のためのロケットはコストを下げつつ安全性を担保することが、必要条件なのでロケット打ち上げ代行はすぐに思いつくビジネスである。情報通信や気象観測、資源探査、GPS、宇宙探査、電離層探査、などの衛星ビジネスもロケット打ち上げコストがネックである。

 現在、運行ができないスペースシャトルに代わってソユーズが唯一のISSまでの輸送手段であるが、ソユーズの機体コストはスペースシャトルの4-5分の1とはいっても、一回の打ち上げコストは50億円であるので、定期的な運用は数百億/年となる。そのため低コストのロケットビジネスは将来をみれば宇宙旅行をしのぐ稼ぎになると考えたのではないだろうか。



冒険家ブランソンの夢
 先頭を行くのはRichard Bransonで、Virgin Galacticという会社を立ち上げ、6分間の無重力の擬似大気圏外旅行を25万ドルで提供する計画である。大気圏は100kmまでだが、彼の計画は100kmを若干超える高さまで到達し、地球を眺めながら無重力飛行を楽しんだのちに滑空して戻ってくる。


 宇宙船スペースシップは母船ホワイトナイトによって14km(成層圏)に運ばれ、そこからロケットエンジンで100kmに達する。計画では500人/年を予定しているがすでに最初の便は予約で一杯である。
 


イーロンマスクの野望
 Eron MuskはスペースX社のCEOである。スペースX社はSpace Exploration Technologies Corporationの略称で、商業軌道輸送サービスという、ロケット輸送で衛星打ち上げと宇宙ステーションなどへの輸送業務を目指している。打ち上げのためのロケットはファルコンシリーズがあり、ドラゴン宇宙船の提供も含めれば完全な宇宙空間旅行も可能になる。


 ISSへの輸送業務に関してはNASAと契約を交わしている。ドラゴンは、円錐型の与圧カプセル(ISSまでの約3tの重量の輸送が可能)とその後部に接続される円柱状の非与圧胴体から成る。ドラゴンは荷物の他に有人型も計画されていて、将来はISSまでの人員輸送の他、本格的な個人宇宙旅行者が現れた時の対応ができる。

 この他に、

・宇宙旅行を目的としたArmadillo Aerospace
・宇宙ステーションのBigelow Aerospace
・Jeff Bezosの宇宙輸送会社Blue Origin
・NASA代行商業輸送サービスのOrbital Sciences Corporation
・Virgin Galacticの機体製造部門Scaled Composites
・宇宙旅行会社Space Adventures
・小型スペースシャトルを製造するSherra Nevada
・老舗のBoeing宇宙航空部門

などがあり、活気を帯びた活動を展開している。なかでもIT企業のCEOを兼任するEron MuskとJeff Bezosは、将来を見抜いて決断し即座に投資できる資金力で、実行力が抜群である一方、Boeingとの協力やNASAの契約をとりつけるなど、リスクを低減しコスト削減につながる抜け目の無い展開は、成功したITの手法を思わせる。



宇宙ビジネス企業の戦略
 こうした宇宙ビジネス企業はどのような戦略を持っているのだろうか。Elon Musk率いるスペースX社を例にとる。スペースX社は2002年に創設され社内でロケットや宇宙船開発を地道に続け、2006年にNASAとISS物資補給のための商業軌道輸送サービスの契約にこぎつけた。


 2010年12月にそのテスト打ち上げを行い、同社は民間企業として世界で初めて軌道に乗った宇宙モジュールの回収に成功した。さらにNASAは、有人型のドラゴン宇宙船の開発と飛行を行う契約も取り交わしたことにより、ファルコンロケットによる有人型ドラゴン宇宙船の飛行は2015年に予定されている。

 わずか13年でNASAのミッションを肩代わりするレベルでロケットや宇宙船の機体製造を独立した民間企業が現れた。かつて半導体産業の製造技術は設計から露光等の技術の機密保持にメーカーは躍起となったが、人材の移動と製造装置メーカーを介した技術流出によって、拡散し新興メーカーの予想を上回る発展が起こるきっかけとなった。


 そうした技術の拡散の地盤にかつてない規模の投資が可能であったことが、新興メーカーの躍進を助けた。NASAのように国家予算での研究開発は効率が悪い。IT企業のCEOはそこにビジネスチャンスを見いだしたのだろう。



IT企業のDNA

 投資の決定過程がCEOの意思決定で即決するIT企業の特徴も強みであった。競争相手が増えつつあるので、独占状態は実現が困難だが、独占が崩れた宇宙産業でもいずれは電子産業のように、衛星打ち上げや宇宙旅行がコモデテイ化するのかも知れない。