半導体製造を変えるマスクレスリソグラフイ

June 13, 2015

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Photo: lumArray


 テキサス州オースチンを本拠地とする研究組合のWalt Trybulaは、半導体産業の未来を左右するのはマスクだと考えている。ムーアの法則の追求によってマスクは複雑となりついに限界に来たのだ。


 そこで考えられるのがマスクレスリソグラフイである。現在、マスクレスでパターンをつくるには光学的に行う方法と荷電粒子(電子)で行うふたつのアプローチがある。写真はLumArray社が開発した600ライン/mmグレーテイング。


 半導体微細加工においてマスクをつくり露光でパターンをつくるのが一般的な手法である。しかしパターンの複雑化、微細化に伴いマスク製作というプロセスのコストとそれによる工程の複雑さが、メーカーの負担を限界まで大きくした。そのブレークスルーとしてマスクレスィソグラフイは必然的に登場した。


 これまでは透明なマスク材料(例えばSiO2)を用いて基板を覆う。その上を例えばクロムなどの透明でない材料でパターンを描画する。このマスクの上から光で分解する高分子膜を薄く積んだシリコン基板に光を照射すると、透明な部分にのみ光があたりその部分がなくなったマスクができる。このマスクによってシリコン基板に回路パターンが転写される。


 露光により数100の半導体チップが書き込まれたウエファーが1時間あたり100枚の速度でラインに供給されていく。クロムでパターンを描くにはPCで位置を制御した電子ビームが用いられる。マスクは膨大な転写に使われるため完璧でなくてはならないが、Trybulaによればその条件を満足するものは10枚つくってそのうちの4枚だという。)これを「歩留まり」と呼ぶ。

 

 通常の露光による書き込みは1回だが、複雑な回路では4-5回の書き込みが行われ、そこでは歩留まりが15%に落ち込むという。数年前は130nmだったプロセスサイズは現在は65nmとなった。

 

 スケールの微細化は工程を複雑にし製造コストに大きく反映する。130nmでは70万ドルだったのが90nmでは150万ドル、65nmでは300万ドルに達した。再書き込み工程を含めれば最先端の65nmデバイスラインではコストが800万ドルともなる。

 

 コストが飛躍的に増大する一方で価格は低下したたことによりメーカーにとって製造工程のコストは大きな負担となっていった。 マスクをつくる工程をなくせないか、という課題が当然のように浮上した。

 

 現実的にはマスクレスリソグラフイはメモリーのように高密度集積回路への適用には時間がかかるため当面はニッチ製品に限られるが、最終的には全ての製品ラインに波及するとみられている。

 

 光学的なマスクレスリソグラフイではゾーンプレートリソグラフイ技術が有望である。ゾーンプレートリソグラフイでは大面積の対象(パターン)はマイクロミラーアレイにより(マイクロビームの集合として)転写される。

 

 MIT発のベンチャーLumArrayは創立後1年で85nmまでの直接転写を可能としたが13nmの光源を用いて20nmまでの直接転写が可能としている。

 



 もうひとつの方法はLucent Technologiesが4年間1,000万ドルで国防省と契約により開発したMEMSの手法を用いるものである。ここではマイクロミラー(注1)の微細化で1,000万個のミラーアレイが使われる。ただし市販されている一般的なマイクロミラーと異なり、一個一個のミラーは回転でなく上下するのみとなる。3ミクロンピッチで配置された1,000万個のミラーアレイで狙うのは10メガピクセルの分解能。

 

(注1)

テキサスインスツルメンツ(TI)が開発した微小ミラーがピボット上に取り付けられていて角度がPCで制御される。プロジェクター用途で市販されている。最大880万個のマイクロミラーアレイは傾きを変えることで当社面に明るいピクセルまたは暗いピクセルを表現する。このチップ(DLPチップ)の特許はTI社が有している。

 

 Lucent Technologiesの現在の技術でできるミラーは10ミクロンまでで3ミクロンへのスケールダウンに対応できない。またマイクロミラーアレイの制御回路を集積しなければならないがその技術開発も課題として残る。そこで電子線を含む荷電粒子ビーム技術の出番となる。電子線ビームによる直接パターンニングは歴史が古く確立した技術であるし、現時点では唯一のシリコン基板へのマスクレスリソグラフイー手法でもある。しかし電子線ビームでは時間がかかること、異なるレジスト材料となるなどの問題から製造ラインに導入するには課題がある。

 

 上記の問題を解決するためテキサス州オースチンにあるMolecular Imprints Inc.は下の図のような”Step-and-flash”(注2)と呼ばれる新プロセスを提案している。このプロセスではモールドとシリコンの間にできる50-100nmのギャップを低粘性流体で埋める。この膜は光照射後にモールドとともに除かれるが、4,000回ごとにクリーニングするだけでよい。この方法では高価なマイクロミラーアレイを用いないので製造コストが低い。


(注2)

インンプリント技術として知られている。インプリントは位置合わせが出来ないのと、樹脂を硬化させる際に収縮してしまい、パターンの面積が大きくなるほど四隅のずれも大きくなり、実用性が無いと考えられてきた。現状では単純なパターン以外は難しい。インプリントパターン領域なら、大量に出回っている4インチ〜6インチ対応の中古ステッパーに液晶をマスクとして使う方が応用度が高い。

 


Photo: Photonics Spectra

 

 

 この手法では50nm以下の高速な露光が可能となりコストも安価なため次世代の露光技術として注目されている。下の写真はStep-and-flashでつくられたパターンのSEMイメージ。


 なおナノシステムソューションズのマスクレス露光装置では最小画素1μmで現時点では世界最高のマスクレス転写分解能である。