レアアース問題に新展開-WTOの正義

Aug. 13, 2014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2010年の時点でレアアースの輸入の90% を中国に頼っており、尖閣諸島沖での中国漁船と海上自衛隊衝突事故において中国政府の報復ではないかと推測されている輸出停止措置となったことは記憶に新しい。とりわけ、レアアースは高磁束・高保磁永久磁石の原材料として近代産業には欠かす事ができない必須の金属である。

 

 国内には1年間の使用量程度のストックがあるとされるが、長期的には希土類に変わる元素、リサイクル、新たなる産出国を探す必要がある。限られた資源を公平に分配できず人類は絶えず争いを繰り返して来たが、金同様に積極的なリサイクルが望まれている。たいてい磁石はスクラップとして扱われるので、溶融状態で他金属と同様に分別精製すべきなのだがコストでできないのが現実である。

 


レアアースを使う永久磁石

 レアアースを使う永久磁石には、サマリウム・コバルト(SmCo)磁石と、ネオジウム(NdFeB)磁石がある。最近ではフェライトにLaCoDy(ジスプロシウム)を 添加することで保磁力・耐保磁力温度があげられるる。永久磁石は電子が持つスピン(地球の磁極に 相当するようなものと考えるとわかりやすい)の向きが揃うことで磁化する。


 そのため、鉄に代表されるようにスピンが揃った状態を保ち続けられる金属は 磁化するが、アルミニウムのようにスピンが揃った状態を保持できない金属は磁化しない。また、磁化した金属でも原子が回転運動できる温度になれば、スピン の向きが揃わなくなり、磁力が消えてしまうため、保磁できる温度も重要な要素となっている。

 

 モーターは電磁石の外側に永久磁石が配置され、電磁石の極性を変えることで回転運動をつくりだす。通常のモーターの電磁石は銅線のコイルを使っているため、電流をコイルに流すことで、熱(ジュール熱)が発生する。このため電磁石で発生した熱で永久磁石が単なる非磁性合金になってしまう。ジュール熱は銅線の抵抗に比例しているので、大型のモーターでは熱発生量も増えることから、高効率モーターを作るには永久磁石の保磁できる温度は高くする必要がある 

 


脱レアアース化

 「脱レアアース化」を目指している経済産業省は支援策により、中国産レアアースのジスプロシウムに対する依存度を2年後に半減させることを目標としている。ジスプロシウムがなぜ最重要課題なのだろうか。それは、現在のEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)のモーターには 例外なく、ジスプロシウムが使われるからである。

 

 EVHEVに使われているモーターのネオジム・鉄・ホウ素を主成分とする高性能ネオジム磁石の最大の欠点は高温下で磁力が低下することである。自動車のモーターとしては、このことが大きな問題だったが、ジスプロシウムをネオジム磁石に添加すると、高温での磁力の低下が抑えられることが分かった。ジスプロシウムが現代のEVHEVにとって欠かせないレアアースなのはこのためである。

 


資源を独占することの愚かさ

 自由貿易を掲げるなら限られた資源を独占するのは愚かである。それを利用して付加価値をつけたハイテクの製品をつくることができる国に使わせる方が、人類全体の益になることはいうまでもない。


 中国によるレアアース(希土類)の輸出制限措置は不当として日本と米国、欧州連合(EU)が世界貿易機関(WTO)に共同提訴した問題で、WTOの紛争小 委員会は26日、日米欧の訴えを全面的に認める報告書を公表した。これを受けて、遅くとも来年までに中国の輸出規制がなくなる可能性が強まった(産業新聞)。

 

 禁輸措置が過去、多くの戦争の引き金となったが、戦争の結果は常にコラタラルだ。被害をみれば、禁輸が愚かな政策であったことを思い知る事になる。