球状半導体の夢が復活

Aug. 28, 2015

Photo: faculty.wiu.edu


夢の球状半導体IC

従来の半導体素子は、シリコンウエハーの表面に回路を露光して、トランジスターなどを集積する2Dの世界であった。これに対してBALL Semiconductor Inc.(BALL社)は、直径1mmのシリコン球の表面に回路を露光するという新しいコンセプトで画期的なLSI製造を目的としたベンチャー企業である。


球状の表面に回路を形成するメリットは、単位体積あたりの表面積がもっとも大きくなるからだ。サイズの微小化とともにそのメリットは大きくなる。一個あたりの集積度が2D回路に比べて増大できれば、複雑な回路も機能ごとにそれらをつくって3D構造をつくることも可能となる。



 

Photo: NSF

 

IC製造コストが1/10に

単純に小さいということは半導体を基板上に実装する際に有利となる。また、ひとつの工場内で単結晶生成から、露光、エッチングなどの工程を行なうことで、コストを下げると同時に、短時間での製品の製造が可能となる、など画期的なLSI製造方法となる可能性を秘めている。

 

BALL社はテキサス州ダラスを拠点とするベンチャー企業で社長の石川明氏と副社長の仲野英志氏(故人)の2人によって設立された。2D回路パターンを45枚のミラーで一回の露光で60%に相当するマスク書き込みができるABDE(Advanced Ball Layout Editor)、さらにマスクレス露光技術で一度に98%のマスク書き込みができるシステムも開発して準備を進めていた。

 

球状半導体ICのメリッットは直径1mmの半導体を内径2mmのラインを流すので安価に製造できる点である。石川氏によれば半導体の8インチウエハー1万枚から2万枚の月産能力で設備に1500億円かかるが、同じ面積を持つ球上にICを作る場合の投資金額は100億円程度と1桁少ないという。荒唐無稽だが実現すれば半導体産業を変革するインパクトがあった。

 

実現しなかった夢のIC

デメリットとしては98%の面積しか利用できていないことであるが、これは露光をマルチグリッド化することにより、原理的には100%の露光が可能になる。もうひとつの問題はプロセス中に位置調整の調整が難しく輸送も考えるとミスアラインメントで高精度パターン転写の分解能が低下するという問題がある。

 

原理的には半導体ICの画期的な製造方法になる潜在能力があったが、残念ながらベンチャーの限界もあってその夢は途中で挫折した。球状半導体には実用化が困難だったのだろうか。時を経て同じサイズの球状半導体を太陽電池 (注1) に応用しようとする企業(スフェリカルパワー)が日本に現れた。

 

(注1)球状太陽電池はもともとは、TIが開発し、コストと実用性の問題からやめてしまった技術。真球をつくれず取り扱いが厄介だったという。15年ぐらい前に特許が切れた。

 


Photo: Spherical Power

 

球状半導体の第2章

この球状半導体はコアとシェルがpn結合していて電極が上下についた太陽電池セルを形成している。下の図のように多数のセルを透明な膜の上に固定すれば半透明な太陽電池パネルができる。半透明であることからビルの窓や外壁を太陽電池パネル化することができるため、太陽の位置に依存しない再生可能エネルギー源として役に立つであろう。

 

その後BALL社は中国に本拠地を移したが、球状ICの実用化にいたらなかった。原理は画期的だったが早すぎたのかもしれない。太陽電池の方は挫折したTIに変わって日本企業が実用化にこぎつけた。しかしBALL社の夢はいつしか実用化する企業があらわれるかもしれない。

 

 

早すぎたBALL社のアイデア

BALL社の夢は未完であるがいずれ別の企業によって実現するかもしれない。しかしその夢は姿をより現実的な半導体デバイスに変えて実用化されつつある。球状半導体ICは日本人の独創的な発想である。