ドイツの移民問題は日本への警鐘

Sep. 3, 2015

Photo: deutchland.de


ドイツと日本は世界大戦後、ともに廃墟から奇跡的な復興を成し遂げた国であるが、それを支えた労働人口に共通点がある。いわゆる高度成長を支えたベビーブーマーたちの高齢化である。それは下のグラフを見れば明瞭にあらわれている。どちらの国もGDPに寄与してきた工業力の持続性が危ういのである。



Graph

 

移民大国ドイツ

ドイツは復興に際してこの問題を自覚し、戦中に追放した国民を迎え入れまた移民とその家族を積極的に受け入れた。ドイツの人口8,200万人(注1)のうち移民とその子孫が1,500万人にも達した。移民の出身は以下に示すように主に東欧と南欧である。

 

(注1)2050年の人口予測では出生率低下によって5,900万人に減少する。人口減少は日本と共通の問題である。内閣府によれば日本の2010年度の総人口(1億2,800万人)は2050年に9,700万人となると予測される。

 

前者にはポーランド、ハンガリー、ルーマニアがありこの場合の移民たちはもともとドイツが戦時中に侵攻した国々で、地理的に近くドイツと関係が深かった隣国である。南欧(スペイン、イタリア、ギリシャ)とトルコからの移民は、多くがイスラム系で、独自の宗教と文化を持ち込んだ。2012年の統計では移民の国アメリカ(100万人)についでドイツは40万人と世界2位の移民大国となった。カナダ(26万人)、オーストラリア(25万人)を引き離している。

 

 

ImmigrantsとEmigrants

ところが2013年の統計は大きな変化がみられ、最近の新たなイスラム系移民の急増問題が始まったことがわかる。移民(Immigrants)の総数が1,226,496とアメリカを上回ったのである。しかし移民審査で受け入れられた正味の移民数ははるかに少ない。国外退去者(Emigrants)が789,193人なので2012年から4万人増加、10%増の44万人となった。2013年のネット移民(注1)の内訳は

 

ポーランド 72,938

ルーマニア 50,342

イタリア 32,862

ハンガリー 24,312

スペイン 23,993

ギリシャ 20,623

 

ただしドイツ国内の移民と子孫の全体の統計ではトルコが最も多く16.4%となる。これはかつて復興期に重工業の労働力をトルコ移民に頼ったことによる。

 

移民許可の現実

移民申請をする移民希望者が122万人いて79万人は国外に退去していたのである。移民申請をしてから審査を待つ間は移民希望者はドイツ国内に居住を保証され食料と水、衣類も与えられる。多くは難民キャンプに収容され審査を待つが、難民の急増で排斥運動も生じ社会不安が起きている。2012年に20万人であった難民は2015年に45万人となる見込みで、2013年のネット移民数(44万人)に匹敵する。

 

注1)ネット移民数はImmigrants(移民)からEmigrants(退去者)を引いた数

Graph: STRATFOR

 

 

難民はどこから来るのか

かつて若い移民は労働力を供給しドイツの復興に役立った。しかし最近のイスラム系移民の急増が社会不安をつのらせる。シリア難民たちである。シリア難民の多くは2011年から始まるシリア内戦の以前は、シリアで職につき普通の生活を送っていた市民である。

 

現在、シリア難民は雇用の機会があり移民受け入れに寛容なドイツを目指して北進を続けている。ハンガリー駅の占拠が毎日のように報道されている。彼らはシリアから6日かかりでトルコ、ギリシャを経由してハンガリー(ブダペスト)にたどり着く。

 

ブダペストやウイーンでは鉄道の切符を持っていても、規制で列車に乗れないため駅に宿泊せざるを得ない。ドイツ(ベルリン)に行くには、プラハを経由しなくてはならないが、ブダペスト、ウイーン、プラハの駅前は切符を持ちドイツ行きを目指す難民たちで溢れかえる。

 

ベルリンにたどり着いても全員が移民と認められるわけではない。不法移民となれば国外退去となるが現実には当局が、移民申請が認められなかった難民を不法移民として扱えるか疑問の声も上がっている。移民政策の根幹に関わる問題が現政権に突きつけられている。

 

 

Immigration Crisis(移民危機)

メルケル首相はEU諸国が難民の受け入れを分担するよう割当制を提案、EUの建前としては分担とすることになったが、現実にはこれに従わない国もあらわれている。2013年の統計でシリア国民2千万人のうち220万人が難民として国外に避難したが、2015年の最新統計では400万人となった。欧州ではImmigration Crisisという表現が使われる。高齢化した市民にとって押し寄せる若い世代の難民は脅威となりつつあるからだ。

 

シリア難民の多くは隣国(レバノン、ヨルダン)に避難する。ついでトルコ、イラク、エジプトが続く。このなかでトルコへの難民は50万人。数字的には2015年にドイツに押し寄せる難民45万人に近い。一方で難民予備軍は400万人以上という国内避難民である。シリア内戦を集結しなければ、欧州への難民の増加は止められない。

 

ロシアの強い支援もあって2015年にアサド政権部隊は攻勢に転じ、アメリカが援助する反政府軍との攻防は拮抗し今後も続くと考えられる。ISや武装集団が入り乱れて単純な政府軍と反政府軍の戦いと呼べない複雑な内戦へのロシア、アメリカ、イスラエル、トルコ、サウジアラビアなど湾岸諸国の干渉に歯止めをかけない限り、国内の避難者の国外難民化が続く。

 

 

日本への警鐘

ドイツの難民問題は遠い国の出来事と思い込んでいる日本も警告ととらえるべきであろう。労働力の不足でやがて移民を迎え入れる国策が議論される時代が近いからだ。安易に労働力を補充する移民政策はこの国の社会、文化への影響も大きい。Industry 4.0、i2tのような効率化を採用して労働力の減少を補うことも重要だ。