リニアのインパクト

Sept. 23, 2014

 

リニア新幹線がスタート

 JR東海のリニア中央新幹線の山梨リニア実験線(山梨県上野原市−笛吹市、42.8キロ)が22日、報道公開された。区間最高速度は505km/hでもちろん実用化されれば世界最高速となる。日本ではリニア新幹線でなじみが深いこの列車は磁気浮上でレールに接触せずに、両側の磁石でモーターが回転するように動くので、日本では「リニアモーターカー」と呼ばれることが多い。

 しかし世界に目をやるとすでに上海では430km/hの磁気浮上列車が運行されている。区間は上海空港と上海郊外の間の29.8kmで最高速を体験できるのはほんの数分である。この列車は磁気浮上、Magnetic levitationから「マグレブ」と呼ばれる。筆者は上海空港から市内まではいつもタクシーであるが、空港から竜陽路駅までの「上海マグレブ」に乗ってみた。



マグレブと超伝導浮上
 両者で大きく異なるのはマグレブでは磁石に永久磁石を使い、リニア新幹線は超伝導磁石を用いている点である。永久磁石は超伝導磁石の磁場は発生できないので、磁気的反撥で浮上する方式では浮上できる距離が小さい。浮上高さは車両側コイルとレールの間で、約8mm程度しかない。(ただし永久磁石のため停電時でもこの距離の浮上は担保されている。)このことはレールの敷設や保守に際して高精度が要求され、地震と地盤の変動荷弱い。地震の多発する日本では実用化が困難であるが、建設と維持コストに優れている。

 超伝導リニアでは浮上量が100mmとマグレブより1桁大きい、空中を浮かぶ、列車といえる。ただし永久磁石と異なり超伝導状態でなくなる(クエンチ)と浮力が消失するため、安全のため車輪を備えている。マグレブでは車体下から磁力で車体を押し上げるイメージであるが、リニアでは側面から車体を押し上げる。さらに速度に依存して不利となる磁気浮上を補うように低速域では車輪で車体を支持する。この方式の磁石制御はマグレブに比べて遥かに難しく、現在その技術を持つのはJR東海のみである。



上海マグレブレポート
 実際に上海マグレブに乗った印象は高速で流れさる景色が新幹線で見慣れた速度範囲を超えていくにつれて、列車の近くの景色は目に入らなくなる。300km/hを越すあたりから景色は流れさって行く。430km/hに到達するのはほぼ中間地点の手前なので、実際にこの速度を体験できるのは数分で、そのあと長い減速区間となる。切符は片道50元(884円@2014.9.23)なので文句もいえないが着いた先がとにかく不便でタクシーに乗り継ぐことになる。二回目の乗車は時間制限で最高速300km/hであったが300km/h以上の体感差は意外と少ない。



 9兆円といわれる東京−大阪間1時間の旅のインパクトは大きい。一方で1時間20分との差に数兆円というのも、相当な覚悟がいる。米国に技術を無償で提供すると約束した日本の首相だが、独占技術なら、もっと売り込み上手なビジネスマンになれないものだろうか。無償にしないといけない理由でもあったのだろうか。もっともいわゆるチューブトレインには500km/hを軽く越えるアイデアもあるので、スパコンと同じいっときの記録だけなら20分に代わる数兆円を賢く使うのでもよかった気がする。


 いずれにしても現行の新幹線システムは傑作で簡単に越えることはできそうにない。国の過去の大型オウロジェクト同様に予定した予算(9兆円)では完成しないともいわれる。トンネル作業のリスクが大きい。だが肝心なのは大阪まで2時間半を名古屋まで1時間と比べると大差ないといえる点で、採算性は厳しく評価しなければならないだろう。