ニカラグア運河の将来性とリスク

19.09.2015

Photo: circle of blue

 

パナマ運河は太平洋と大西洋を結ぶ唯一の運河であり世界のチョークポイントのひとつだが、ここを通る船舶には制限が多く能力が限界に達している。全長80km3区間に分けて通過するのに24時間を要し、通過できる船舶の最大幅や吃水に厳しい制限がついている。貨物船の最大トン数は17万トンクラスである。

 

一方でアジア諸国の成長に伴い太平洋から大西洋への貨物輸送において中国が1位となり、中国の輸出における重要性が際立つようになった。パナマ運河の容量不足の深刻化に伴い、拡張計画が1999年に返還されたパナマ政府のもとで2016年から進行している。52億ドルをかけた拡張工事は2016年度に完成する予定であるが、これと並行して進められているのがニカラグア運河である。

 

 

これまで大西洋と大西洋をつないできたパナマ運河は拡張工事後にライバルが出現する。ニカラグア政府が中国の支援で進めているニカラグア運河である。もともとパナマ運河と運河建設候補地を争ったニカラグアは米国から距離を置くオルテガ政権のもとで、念願の運河建設計画を進めたが、そのバックボーンは中国であった。

 

香港系財閥は投資家から400億ドルを集めニカラグア政府に働きかけてHKNDという共同投資会社を設立し、2014年にルートを決定し工事に入った。ニカラグア運河の全長は259.4kmとパナマ運河の3倍となる。2019年完成予定のニカラグア運河ではULBC(注1)と呼ばれる40万トンクラスの超大型貨物船の通行が可能になるため、パナマ運河を通過できない貨物船も通過できるのが特徴である。 

 

増え続ける海運量を背景にしたニーズから将来性は疑問の余地がないとはいえ、中国経済に依存した事業のリスクは無視できないものがある。チャイナリスクを抱えると同時に、建設後の雇用持続性と債務に対する見通しがないことは暗い影を落とす。

 

 

Photo: NuMund

 

雇用を生み出すことでオルテガ政権も力をいれる超大型プロジェクトであるが、途中でニカラグア湖を通過するため湖の生態系に悪影響を及ぼすとして環境団体の反対運動もおきており、中国経済の縮小の影響で工事に遅れも懸念されている。

 

パナマ運河もニカラグア運河も水位調整を段階的に水門を閉じて行う方式だが、ニカラグア運河の計画には水源としての人工湖計画がない。水路を引いて中央のニカラグア湖の水源を使うとなると湖の水資源不足につながり生態系の変化ではすまされない。

 

水門の仕様や水資源の確保の具体的な詰めが甘いという指摘もあり、今後の展開を危ぶむ向きもある。ちなみに資金は建設費(180億ドル)を上回る規模だが、ニカラグア財政へ重くのしかかる建設後の借款返済も政権を危うくする危険性もはらむ。米国の影響力を排除したニカラグアだが独立への道は経済が困窮しそこを狙って中国が忍び寄っている。

 


Photo: The Conversation

 

いずれにしても拡張後のパナマ運河の通行可能容量は増え続ける海運需要を満足できないことは確かだ。したがってニカラグア運河建設の必要性は疑問の余地がないのだが現実は厳しい。建設計画の技術的問題と建設後の事業見通しと返済計画がどれも甘いことは、大きなリスクとなっている。

 

 

(注1)大型タンカー区分に合わせた貨物船の重量カテゴリー、ULBCUltraLarge Buk Carrierの略でタンカー区分のULCCUltra Large Crude Carrier)に対応する。