暴かれた市長の企みーメキシコの大量殺人

Nov. 10, 2014

 

 

 メキシコ南西部ゲレロ州イグアラ市で9月に6人が殺害され、教員養成大学の学生43人が行方不明になっている。この事件で、容疑者の麻薬組織(カルテル)ゲレロス・ウニドスのメンバーが43人を殺害し、遺体を焼いて川に捨てたと供述した。


 

 国境沿いのテイファナならまだしも太平洋岸で国境から遠いゲレロ州で何故いまさらカルテルが大量殺人でわざわざ当局の標的になるようなことをしたのだろうか。2006年から現政権はカルテル撲滅に力を注ぎ弱体化させたがこの間で5万人もの民間人が犠牲となった。まさにカルテルとの戦争(メキシコ麻薬戦争)である。ちなみにメキシコから国境を越える麻薬はコロンビアなどの南米で生産されたもので、メキシコは経由地にすぎない。


 

 ゲレロ州は確かにメキシコ麻薬戦争の舞台のひとつでカルテルが暗躍していた(下の地図参照)が、今回の事件を契機としてメキシコ検事局はゲレロス・ウニドスのボス、シドロニオ・カサルビアスを逮捕した。イグアラ市で殺された6人の他行方不明の43人の所在については現在捜査が続いているが、調べて行くと単純なカルテルが民間人を巻き込んだというわけではないことが明らかになってきた。


 

 この事件に関係して捜査当局はイグアラ市の元市長ホセルイスアバルカ・ベラスケスとその妻マリア・デロス・アンーへレスピネダを逮捕した。また捜査当局はこれまでに28人の身元不明の遺体を発見していたが、9日、新たに4か所から地中に埋められた多数の遺体を発見した。正確な身元はDNA鑑定を待たなくてはならないが、事件は9月26日に、教員養成大学に通っていた学生43人がメキシコ市の南200キロに位置するイグアラ市でバスに乗っていたところ、元市長の命令で地元の警察が発砲して集団誘拐し、43人がゲレロス・ウニドスに引き渡され、以後消息を絶った。



 大量殺人の犯人は市民を守るべき市長であった。教員養成大学の学生達は貧しい農家出身で選挙に出ようとする妻マリアに反対していた。市長夫妻は選挙の邪魔になる学生達を集団で警察を使って誘拐、一部を殺害し残りの殺人と証拠隠滅をカルテルに「委託」したのである。筋書きは映画のようでわかり易いが、市民にとってはショックであった。


 警察がカルテルと結んでいることは珍しくない。しかし普通は安い給料のため悪に身を染める下っ端警官の話ではなく市長が殺人者であったことが異なる。いかにも恐ろしい国のように思うかもしれないが、一般の旅行客が観光地で被害を受ける確率は少ない。実際、メキシコの犯罪率はカナダより低く、アカプルコやカンクーンなど観光地は安全である。犯罪の多くは局地化していて、国境沿いの麻薬組織が密輸に絡むためである。