ナノテクノロジー先駆者はローマ人

May. 1, 2015

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金、銀などのナノ粒子は代表的なナノテクノロジーとして触媒材料を中心に広範囲に応用されているが、古代ローマ人が1,600年も前に使いこなしていたとしたらきっと驚くに違いない。


 "Lycuurgus Cup"(上の写真)は現代の波長の異なる照明で色の変わる発色技術に酷似した先端技術を用いている。最近の研究によってガラスには金、銀ナノ粒子が含まれていることがわかった。


 ローマの職人こそ1,600年前のナノテクノロジーの先駆者であったのだ。"Lycuurgus Cup"は正面から照らすと、緑にそして背面から照らすと赤にみえる2色性を持つ。


 大英博物館所蔵の聖杯(注1)隠されたナノテクノロジーの応用範囲は現代にも通用する先端技術であった。1990年からこの色の変化の謎が研究対象になって来たがスミソニアンマガジンによれば、解明されたのは最近であるという。


(注1)聖杯の多くは銀製である。最後の晩餐に使われたとされるがミラノの壁絵にはそれらしきものは描かれていない。


 破片を詳細に分析した結果、直径50nmの金、銀ナノ粒子が含まれていることが明らかになった。色の変化は金属ナノ粒子の特徴であるプラズマ振動の周波数で決まる。(注1)


(注1)半導体ナノ粒子ではサイズ効果でバンドギャップが変化するために直径に依存してギャップが変化することにより、吸収波長が変わる別の機構によって色が変わる。金属ナノ粒子はギャップがなく、自由電子がプラズマ振動を起こすことが発色(吸収)機構となる。この機構を使いこなすにはナノ粒子のサイズを均一に制御する高等技術が必要である。



 

 なおこの技術を応用した先駆者は電気化学の父ファラデーとされていた。電磁気学のファラデーの法則やファラデー定数で知られるマイケルファラデーは英国王立研究所で数々の業績を残すが、金コロイド粒子を発見するとともに、有名な「カシウスの紫」(注2)の発色が金の微粒子によるものであることを世界で初めて説明したことから、ナノ粒子の先駆者とされてきた。

 

(注2)カシウスの紫

 ガラス表面をルビーのような赤紫に着色するために古くから用いられた材料。カシウス紫(Purple of Cassius)と呼ばれる。20世紀前半に金ナノ粒子とスズ酸の混合物であることがわかった。上の写真の赤い色がカシウスの紫。

 

 しかし1,600年前にこの技術を使いこなした職人達がローマにいたことで金ナノ粒子の父の称号は残念ながら返上せざるを得ない。金ナノ粒子は最新科学でその光学的性質を決める原子の配列が解明され、応用も加速しているが、人類は経験的に1,600年前に使いこなしていたのである。