ムーアの法則の終焉は2017年か

Apr. 21, 2015

 

 "No exponential law is forever"とはムーアの法則を提唱したGordon Moor自身の言葉である。かつては仕事で使う計算機として、またゲーム機として活躍した高性能PCの心臓部であるCPUの世代交替ルールに終焉が訪れようとしている。(上の写真はインテル  core2プロセッサ、一昔前ならスパコンだがゲームマニアは見向きもしないコモデテイとなった。)

 

 ムーアの法則というのは「1チップに集積できるトランジスタの数が、2年で2倍に増える」というもので、後に「2年で2倍」に改められ、その後紆余曲折はあるものの、結果はこの法則に忠実に従って来た。


 

 かつてはCPUはPCの処理能力を一手に引き受け、ほぼ2年おきに2倍となった高性能CPUを(当然のように)採用した新製品ラインアップで、顧客を掴んだ。こうしてCPUメーカーは市場に、ムーアの法則に従った微細なチップを供給することを繰り返して来た。

 

 1970年代の10μmスケールは現在では10nmとなったが、1世代異なるごとに露光を含めて膨大な新技術がプロセスに投入され、ラインは複雑化し高額になっていった。世代交替に伴う技術的問題が多数発生し、生産ラインコストが急速に膨らんで半導体企業に淘汰をもたらしたが、なんとかムーアの法則からはずれには至らずにここまで来た。スケールを数値で表せば簡単だが数値が変わるごとにプロセスは別の世界になる。メデイアは記事で気軽にスケールを扱うが、気が遠くなるほどのステップが組み合わされた末でのスケールなのだ。

 

 しかし微細加工スケールが物理的限界が近くなった。すなわち半導体表面の酸化膜のリーク電流が物質の誘電率で決まるトンネル電流で決まる極限の素子サイズになった。これがシリコンの限界であり、ついに微細加工の限界が見えて来たのである。かつてライバル同士の半導体メーカーが集まって組合をつくり日の丸半導体の基礎を立ち上げた時代、技術者たちの宴会の席で歌われたのは「シリコンの歌」であった。まるで軍歌のようなこの歌にはシリコンにかけた技術者の思いがあった。そういう意味ではムーアの法則の終焉というよりは、"Silicon is over"というのがあたっている。


 

 一方、CPUの活躍の場であったPCの状況も変化が見えて来た。有名な"PC is over"というIBM CEOの言葉通りの世界になった。ノートPCが高性能化し、低価格化で主力商品になった一方で、デスクトップ型は低価格でコンパクトな一体型に人気がシフトした。最軽量ノートPCのNEC Lavie Hybrid-zeroやRETINAデイスプレイの27インチiMacに人気が集まってはいるものの、全体としてPCは飽和を通り越してゆるやかな衰退に向かっている。

 

 使い易いタブレットやスマホに取って代わられ、PCを中心に据えて周辺機器で囲むビジネスモデルが終焉を迎えたといえるだろう。TVを含む家電とPCの融合も試みられているが成功しているとはいえない。現在、PCに代わる電子機器の中心にあるのはタブレットやスマホであるが、これとてやや飽和が見えてきた。

 

 東芝のCELL搭載液晶TVのように、TVとPCの融合化が進むのかも知れないが、いまのところその他の家電との融合はあまり成功していない。Regza-TVやapple TV、Chromecastがあるがこれで状況が変わるとも思えない。またスマホやタブレットの連携もあるが、まだTVをデイスプレイとして使える状況には至ってない。つまり高性能のCPUを使い切るPCと家電の融合もニーズが不透明で、スマホも含めて高性能CPUのニーズが見えて来ない。CPUの高性能化にはそれに見合った新たな使い方を常に考えていかねばならないのに。

 

 

 2010年1/4期では32nmまで、その後は22/20nmへさらには16/14nmに微細化が進んだが、その先のステップは先がみえない。新しいラインの建設コストが高くなり、一社の投資では困難なほどになった。


 そんな中でTSMC、インテル、IBMは16nm技術のCPU生産を決定、Samsungはスマホ用CPUに14nmFinFETを一足早い生産に踏み切った。ムーアの法則の終焉が近いことが明らかだ。高性能CPUの熱密度は原子炉内部に匹敵している。インテルもAMDも、微細化をアピールしなくなってきた。微細化に対費用効果でメリットがなくなったからである。

 

 最大手のファウンドリTSMCは10nmプロセスの開発を2015年第4四半期に着手し、2016年第4四半期に量産を開始する。さらに7nmプロセスは、10nmチップの製造設備がほぼ流用できる見通しで、2017年前半に予定している。

 

 7nm以降は先がみえないということは2017年にムーアの法則が破綻するということになる。これでしかし電子産業が終わったわけではない。シリコン素子というチャプターが幕を閉じるだけだ。新たなデバイス指針はいったいどのようなものになるのだろうか。電流オンオフという古典的デバイスに代わるデバイスの登場が近い。超伝導エレクトロニクスにはしばらく出番はなさそうだが、すでに量子計算チップ(写真)も開発されている(D-wave)。


 

  スピン偏極、スピン注入、スピントルクなどのスピン流と呼ばれる特異な物理現象を利用するデバイスが話題となり研究開発が急ピッチで進められている。その結果、スピンポンピング、スピン蓄積、スピンホール効果、逆スピンホール効果、スピンゼーベック効果などの新しい物理現象が続々と出現し、スピン流によるデバイスへの応用が現実的となりつつある。

 

 「必要は発明の母」といわれるが2017年は転機になるだろうか。ハード的には発熱する電流を流さずに、スピンの流れるを用いたエネルギーの散逸のない電子回路(スピントロニクス)に期待したい