米国武器輸入を拡大する中東

Apr. 22, 2015

 

 過激派や反体制組織によるテロとの戦いやイスラム教のスンニ派とシーア派との対立で紛争地帯に発展している中東では、湾岸諸国が長年米国から輸入してきた武器が実戦で使われているが、今後各国による武器輸入はさらに拡大するとみられる。



 今回の「ディサイシブ・ストーム作戦」によるイエメンの空爆はスンニ派の湾岸諸国(サウジアラビア、UAE、バーレーン、カタール、クウェート)とエジプトの連合で実施してきたが、各国は米国産の戦闘機や軍備を使っている。イエメン空爆には、サウジアラビアはBoeingの F-15機(注1)で、イエメンとシリア空爆にはアラブ首長連邦(UAE)はLockheed MartinのF-16機(注2)を使用、購入予定があるGeneral AtomicsのPredator無人機(注3)は隣国状況の情報収集や監視活動に使われる予定である。



 カタールは2014年にはペンタゴンからAH-64アパッチヘリ、パトリオットミサイル、ジャベリン地対空ミサイル(注4)など110億ドルの購入契約を結んでいるが今年は、さらにF-16を含む軍備の拡大を図る予定である。



(注1)F-15

マグダネルダグラス社(現在はBoeing社に吸収)第4世代性空戦闘機。アメリカ空軍に877機配備された他、イスラエル、日本、サウジアラビアに合わせて356機配備された最高速度マッハ2.5を誇る傑作機。(上の写真がF-15)

 

(注2)F-16

ジェネラルダイナミクス社(ロッキードマーチン社が吸収)が開発した第4世代マルチロール(多用途)戦闘機。F-15より小型でコストが安いことからアメリカ空軍に1, 020機が配備された他、イスラエル、台湾、韓国、エジプトに配備された分を含めると4, 500機以上生産のベストセラー機である。なお日本のF-2は紆余曲折の後、日米でF-16をベースに共同開発されたものである。(下の写真がF-16)

 


 

(注3)Predator

ジェネラルアトミクス社の無人機システムRQ-1。偵察とヘルファイヤミサイルによる無人攻撃能力を持つ。映画「ボーンスプレマシー」でミサイル無人攻撃が描かれている。中東の他、ボスニア、アフガニスタン、パキスタン、イラクなど多くの紛争地域に投入された。その起源はCIAがイスラエルの会社から購入し偵察のための改修を協力して行なった機体である。以後、ジェネラルアトミクス社が引き継いで360機を生産した。アメリカ以外の配備国はイタリア、イギリス、トルコである。(上の写真がPredator)

 

(注4)ジャベリン地対空ミサイル

 レイセオン社とロッキードマーテイン社の合弁会社ジェアベリン社が製作した歩兵が携行する対戦車ミサイルであったが、低空で飛行するヘリコプターも撃ち落とすことができる。ミサイルは赤外線ビームの反射を頼って自動追尾(テキサスインスツルメンツが担当)するので発射後は退避できるため報復攻撃を受けにくい。2003年のイラク戦争以後中東では、ヨルダン、サウジアラビア、バーレーン、オマーン、UAEに配備された。(先頭の写真)

 

 

 拡大する軍事市場

 米国の軍事費は2010年以降、国防予算の大幅削減のため20%も縮小した。だが、米国の軍需産業は米国でのマーケットが縮小した代わりに、中東諸国への輸出増で売り上げを伸ばしてきた。中東への輸出が伸び始めたのが、1980年代に起きたイラン・イラク戦争である。しかし、アラブの春、中東におけるイランの脅威、過激派組織(タリバン、ムスリム同胞団、アルカイダ、アイシス)などの脅威で、武器輸入は大幅に増加している。

 

 ストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institue , SIPRI) (注5)によると、2005年以降の大きな世界的な傾向は、米国や西ヨーロッパ諸国の軍費が減少しているなか、中東、アフリカ、アジア、東ヨーロッパ諸国の軍費が拡大していることだという。特に注目が向けられるのが、サウジアラビアの軍費の拡大である。2005-2014年の間、軍費は112%も増加している。中国の167%につづき、世界で2番目に増加率が高かった国である。2014年の年間軍費(800億ドル)はGDPの10.4%で、世界で最も軍費が拡大した国である。


 

 

兵器輸出で潤う米国軍需企業と国防省

 長年に渡り武器輸出は米国にとって、主要な外交政策と安全保証の手段として使われてきた。しかし、近年は軍需産業の収益減を回避する手段として使われているような状況になっている。中東での紛争が続くほど、米国の軍需産業の武器輸出と収益が伸びる

 

 今後、中東におけるイランの脅威が米国の同盟国に危機的な状況となると、最新のF-35戦闘機(注6)の輸入の需要が増えるのは時間の問題である。イエメンの戦火は国内に広がりつつあり(下の図)、大国が武器を投入することで中東戦争への拡大と紛争長期化の危険をはらむ。


 

(注5):SIPRI

 『軍備・軍縮年鑑』の刊行や世界における紛争の平和的解決、平和を維持するための国際的な協力などについての研究を行っている研究機関である。

 

(注6)F-35

 現在、世界最強のステルス戦闘機F-22は米国議会が輸出を禁止したため、最高速度では少し劣るが、ステルス性能においてはひけをとらないF-35を同盟国では導入する傾向にある。日本と韓国も導入を決めているが日本だけがライセンス生産で保守も自国でできる。韓国は購入なので自国で修理できないが日本で修理したくないとして、日本と同等の条件を要求している。写真のように海兵隊仕様では垂直離着陸が可能であるため、海上自衛隊のヘリ空母が(原理的には)空母になるとして物議をかもしている。(上の写真)