宇宙の防人DSCOVR

Feb. 13, 2015

 

 イーロンマスク率いるスペースX社のファルコン9で宇宙気象観測衛星「Deep Space Climate Observatory(DSCOVR)」が打ち上げに成功した。DSCOVRはどのようなミッションなのだろうか。DSCOVRは米空軍と米航空宇宙局(NASA)、米海洋大気局(NOAA)の開発による太陽活動や磁気嵐を観測する、宇宙気象衛星で地球を周回する軌道でなく、太陽の間に位置する引力の均衡点に位置し地球に影響を与える太陽風を5年間に渡って観測する。


DSCOVRの役割

 DSCOVRは太陽風の影響を左右する地球表面のエアロゾル(大気中の微粒子)量やオゾン、地球の放射バランスなどを観測する。太陽風は太陽の表面100万度以上の密度の低い薄い大気(コロナ)から放出される電荷を帯びた粒子、陽子や電子が太陽フレアに伴って地球に到達する。オーロラもそのために生ずるが、地球上の環境は地球磁場で守られている。


 こうしてみると太陽風は地球を狙う危険な存在のように思いがちだがそうではない。もっと危険な宇宙線は太陽系外からやってくる。不思議なことに太陽活動極小期に銀河宇宙線量は最大となる負の相関を持っている。太陽風はこうした強大なエネルギーを持つ銀河宇宙線から、地球生命を守っているのだ。



















EPIC地球画像を送信

 DSCOVRは地球と太陽の重力が拮抗する場所にあって地球を朝から晩までEPICというカメラで観測し続けてデータを送信する。EPIC(Earth Polychromatic Imaging Camera)は地球を一度に撮影する点で唯一の機器である。何故なら現在の地球の全体写真は周回軌道から撮影された写真を合成することによって得ているからである。月周回軌道からも地球の写真は撮影できるがDSCOVRはその4倍の距離から全景を1枚の画像に収める。地球からの距離は100万マイルすなわち150万kmである。EPICは10の異なる波長で撮影する。波長の異なるイメージを比較してオゾンやエアロゾルについての貴重なデータが得られる。(写真提供:NASA/DSCOVR)

 

 




 

 30cm望遠鏡と組み合わせた撮像素子のEPICシステムはシリコンバレーの中心パロアルトにあるロッキードマーテイン社が開発した。DSCOVRは地球温暖化を警鐘するゴア副大統領の肝いりでスタートしたが、ブッシュ大統領が凍結した。このときには完成していた機材はしかし機転をきかせたロッキード社が保管しておいた。紆余曲折のあと打ち上げコストがスペースX社のファルコン9ロケットで圧縮された結果、日の目を見ることになった。

 

 太陽嵐は段階を経て地球を襲う。まず太陽フレアとして知られる太陽表面での爆発現象が起き、X線や紫外線を超高速で放射する。その数時間後には電子や陽子などの荷電粒子束が続き、これら粒子線が金属に電流を発生させて電子機器に損傷を与える。さらに「コロナ質量放出」が発生し、数十億トンに及ぶ大量の帯磁プラズマが放出され、1日あまりで地球に到達する。



 その結果地球磁場では防ぎきれないEMPが地球全体を襲うので、電子機器、送電網が破壊されインフラは壊滅的な打撃を受ける。地球から100万マイル離れた地点でまるで離島の測候所のようにその兆候をいち早く地球に知らせるDSCOVRは防人なのである。